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身長差


 始めは挙動不審なだけだった。後にそれが照れのせいだと知ったが、その後もゴルベーザ様を前に赤くなったり青くなったり、いつまでも平常心に戻る気配がない。それどころか日に日に悪化している気さえした。
 何故だ? 今はこちらの世界に来てから一番幸せな時ではないのか?
「放っておいていいのだろうか」
「何がー?」
「サヤのことだ」
 バルバリシアはこのところ幸せそうだな。浮かれすぎて広がった髪がとても邪魔だ。
 おそらく「これでサヤもどこへも行かないわ!」などと考えて舞い上がっているのだろう。以前にも増して楽観的になった……というより少しサヤに似てきたか?

「あの娘がどうしたのよ」
「この間から様子が変だろう?」
 結婚というのは人間の、特に女にとっては非常に重い意味があるものだと聞いた。ついでにゴルベーザ様の歳でまだなのは結構やばいとも聞いたが何がどうやばいのだろうか。彼の年齢もゴルベーザ様とさして変わらないならエッジも「やばい」のか?
 いや、今はサヤのことだ。噂に聞いたまりっじぶるーとかいうものでもないらしい。私やバルバリシアへの態度はいつもと変わらない。スカルミリョーネやカイナッツォにもそうだろう。
「ゴルベーザ様に対してだけ言動がおかしくないか?」
「好きだって口に出せないから後ろめたいんでしょう」
 そんな単純な理由ではないと思うんだがな。……そういえば私はサヤに言われたことがあっただろうか。無理矢理言わせたことならあるが。
「お前は好きだと言われたことはあるのか?」
「言わせたことならあるわよ」
 バルバリシア、お前もか……。おかしいな、スカルミリョーネ辺りには嫌がらせのように何度も言っているのに。セオドアにも何度となく口にしているらしい。共通点が見出だせない。
「どうしてああも素直じゃないんだ……」
「愛してるからよ」
「……変わったな、バルバリシア」
 一体いつの間にそこまで自信をつけたんだ。追い回しては逃げられていたお前は何処へ……。
「軽く口に出せないのはこめられたものが重いからよ!」
「自分に言い聞かせていないか?」
「うるっさいわねーうだうだ悩むんじゃないわよ。何か問題あるなら人間どもがお節介焼いてどうにかするでしょ」
「いや……そこは私達がどうにかすべきなのではないか」
 身内の問題だろう、これは。サヤが悩みを抱えているならば、ましてそれがゴルベーザ様に関わることならば、聞くのも解決するのも私達でありたい。
「火を司ってるくせにゴルベーザ様の幸せに水を差すんじゃない」
 別にそんなつもりではないんだが……というかそれは関係ないような。

「仮に放っておいて、サヤがゴルベーザ様から離れてしまったらどうする」
 有り得ないことではない。彼女は一度それを選んでいるのだから。……想っているかは、共に生きるかどうかとは別問題だろう。
「離れられはしないわよ。サヤはゴルベーザ様がおられなければ生きていけないのだから」
「逆ではないのか?」
 彼女はゴルベーザ様の求めに応じてここにいるのに。今は私達のためでもあるが。
「サヤは誰が呼んだかなんて気にしていないわ」
 そうなのか? ここにいる理由は彼女が何よりも気にかけていた事柄ではないのか。サヤを求める者があるから、それがゴルベーザ様だからここにいるのでは。
「あの娘がほしいのは意味よ。この世界に存在する意味」
「……理由ではなく?」
「それは他人のものでしょう」
 意味とて他人のものには違いないだろう。ゴルベーザ様の望みがあるからこの世界に留まっている。それが理由では……、それでは、求められなければ存在できない?
「あの方への想いはサヤ自身のものだもの。好きだなんて軽々しく口に出してしまえば、ゴルベーザ様は理由を考えてしまわれるでしょう」
 彼女が自らの意志でここにいるならば。……ゴルベーザ様の意志とは無関係に、ここに存在する意味がある。何者にも左右されず消えることのない強固な意味が。
「ゴルベーザ様の中身が闇でも光でも、どうでもいいのよ」
「それは……それで本当にいいんだろうか」
 相手を無視して、例え傷つけたとしても自分の意志を貫くというのは。……人間としてあまりいいことではないような……ああ、私達といたせいでサヤの人間性が損なわれてしまったのではないか?
「いいじゃない。結果二人が幸せになるなら何の問題もないわ」
「何故そんなに自信があるんだ」
「サヤが爆発しそうだからよ」
「……は?」
 それは一大事じゃないか。いや、文字通り爆発するわけではないだろうが、すでにそこまでの不満を溜め込んでいるということか? ならば尚のこと、何故バルバリシアが冷静なのか理解できない。

「あの娘がゴルベーザ様に本気で怒るところを見たことあるかしら、ルビカンテ?」
「ああ、いや…………ないな」
 不満をぶつけているところなら何度も見たが。深刻そうに見えてもいつしかうやむやにして流してしまっていた。
 思い返せば、心の底から怒っているのは見たことがない。
「不満を流せないほど奥深くにゴルベーザ様がいるのよ。後回しできないくらい切羽詰まって大切だから」
「…………」
 簡単には口に出せないほど強い想いだから、ゴルベーザ様には好きだと言わない。例え拒まれても離れられないから……、いい加減な答えも出せない。
 重いからこそ不満が溜まる。それは確かに、悪いばかりのことではないかもしれない。しかし苦しんでいるのを黙って見守れというのも辛い。
「何よその顔は。なんだか腹立たしいわ」
「いや……妙な敗北感が、な……」
「呆れるわね。ゴルベーザ様と張り合ってどうするの」
 お前に対する敗北感なのだが。流石にあれだけ張り付いていれば、バルバリシアの方が私などより余程サヤを理解しているようだ。
「今回は私の負けだ」
「な、何の話よ?」
 脆い絆ではないと信じている。二人から求められるまでは、黙って見守っていようか。……だから、なるべく早く助けを求めてほしいものだ。

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