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我が道を行く


 思わず胸に吸い寄せられる視線を必死に持ち上げて、考え込むリディアの顔を見つめる。どうしてこの世界の女の人はみんな露出が激しいのかな。もっと惜しもうよ! なんか困るんだよ! ああっ、また見ちゃった。
「うーん」
「ごごごめんなさい」
「えっ、何が?」
「あ、なんでもない」
 何もしてないのに、つい謝ってしまう、日本人だもの。べつにやましいことなんかないですってへらへら笑ってみる。リディアはちょっと不思議そうに首を傾げただけで、また手の中の本に視線を戻した。無防備さが怖いぞ、そこの自覚のない美女!
「……これならたぶん、大丈夫。基本的には召喚魔法と変わらないみたい」
 ああ、悩む姿もなまめかしい。いやいや、ちゃんと聞いてるよ。ん? ……いま大丈夫って言った?
「え、じゃあわたし、元の世界に帰れるの?」
「うん。でも……あたしじゃちょっと……力不足かなぁ」
「そっか……」
 わたしを呼んだゼムスだって、あれですごい力の持ち主だったんだもんね。そういえばゴルベーザも前に似たようなこと言ってたっけ。結局あれから帰る方法探してくれてたのかなぁ。今あっさり見つかったってことは探してなかったのかな。でも確実な判断ができるまで言わなかっただけかも。……ま、いっか。

「じゃ、ゴルベーザだったら使える?」
「……使えると、思うよ」
「そっかぁ、じゃあとりあえず安心していいのかな」
「うん……でも、あの……」
 リディアが視線をうろうろさせながら言いにくそうに口ごもる。何が言いたいのか、なんとなくはわかるけどね。わたしには今だからこそ知っておかなきゃいけないことなんだ。
 だけどそんなこと、一人で納得しててもダメだって、後ろから聞こえた声の暗さでやっと気付いた。
「私には使えない。……他をあたってくれ」
 振り返るとそこに、目を合わせないゴルベーザ。ぽかっと口を開けたわたしが言葉を絞り出そうとした瞬間、闇に包まれて消えた。
 ダメだあれ。絶対なんか勘違いしてる。そりゃなんにも言ってなかったわたしも悪いけど……なんなの、わたし全然信用されてないの?
「……帰れるからってすぐ帰るわけないじゃん。もー! うちに戻ったと思う?」
「どうかな……でもきっと、行くところなんてないから……」
「しょーがないヤツだ!」
「でもサヤも悪いよ?」
 ……わかってるってば。少し眉を寄せたあと、リディアはふわっと笑ってわたしの肩を叩いた。
「いってらっしゃい」
 うーん、そうか。この世界の女の人はみんな、自分をさらけ出して生きてるから強いんだ……。いつだって他人のことを考えられるくらい。
「いってきます、って自分の家なんだけどなぁ」
 軽やかな笑い声を後ろに聞きながら、住み慣れてきたこっちの我が家を目指す。

 なんだか家のまわりがどんよりしてる気がする。ゴルベーザが精神波でも出してるのかな。ただでさえ町外れのボロ家なのに幽霊屋敷っぽくなるからやめてほしい。
 そっとドアを開けてわたしの隣の部屋の前に立つ。静かすぎ。みんなどっか行ってるのかな。……なにかイヤなことを思い出しそうで怖くて、必要以上に大きな音を立ててゴルベーザの部屋に入る。よかった、ちゃんといた。
「……そんな捨て犬みたいな目で見られても困る」
「…………」
 目を逸らせ、って言ったんじゃないんだけどなぁ。もっとちゃんと、思ったこと口に出してほしい。何を怖がってるのか想像しかできなくて、どうやって説明したらいいかわかんなくなるんだよ。
 逸らした視線の先に腰掛ける。と、意地になって反対側を向いたので顔を掴んでこっちを向かせる。グキッて音はたぶんわたしの気のせい。

「……サヤ」
「聞かなきゃ教えてあげない」
「……元の世界に、帰るのか。私にそれをさせるのか?」
 頷いたら死んじゃいそうな顔。本当はわかってたのかもしれない。ゴルベーザならわたしを帰せる、って。それで言い出せない自分に落ち込んでたのかも。でもやっぱり想像でしかない。
 なんか、悲しいより腹立ってきた。こいつ進歩してないー! って。
「まだ帰らないよ」
「サヤ、お前を愛している」
「う……それ、苦手なんですけど」
「……お前が好きだ。私の傍にいてくれ」
 うわ、響きが一緒だから意味ないし。恥ずかしすぎて耳の先がぞわぞわする。愛してるって何、聞いたことないよ! 映画か! 欧米か! だからって月が綺麗だの死んでもいいだの言われても困るけど。わたしの防御力の低さをなめるなよ!?
「……傍にいて、だけでいい。言われなくたって、いるけど!」
 顔を掴んでた手の上にゴルベーザの手が重なる。あったかい肌に挟まれて、ちょっと熱がおさまった。自分でやっときながら言っちゃダメなんだろうけど、この体勢で落ち着いて話すのって至難の業かもしれない。

「わたし、ゴルベーザと結婚するって言ったよね?」
「……ああ」
「なのに方法が見つかったらさっさと帰ると思ったの? わたしってそこまで薄情?」
「サヤならやりかねない」
 なにいいい、そんなふうに思ってたわけ、へええ! 頬っぺたつねってやる。
「痛いな」
「間抜けな顔!」
「……帰る方法があると知っても、お前の気持ちは変わらないのか?」
「あったりまえでしょ、わたしだって……」
 じっとわたしを待ってる目が言葉を途切れさせた。続き……が、言えない。愛してる? 無理! 大好き、まだ恥ずかしい。好きだよ、は小さすぎるかな。
「……わたしだってゴルベーザの傍にいたい。ちゃんと戻って来れるって保証されるまで、帰れないよ」

 わたしの手を覆ってた手が離れて背中にまわされた。ぎゅうぎゅう抱きしめられても、気分としてはいいんだけど……。
 帰りたい気持ちは抑えられないし、抑えようなんて思わない。でもいざ帰る方法が見つかった今、やっぱり置いて行くのは無理だなって実感してる。ゴルベーザも連れてっちゃえば? って思ったりもした……でもそれはないよね。こんなどっちつかずな思い、させたくないし。
「……もし、二度と帰れなくてもね」
「……ああ」
「ゴルベーザが一緒に後悔してくれるなら、平気だよ……」
 動けないほど強く抱き寄せてくる腕。無理矢理引きはがして、わたしから抱き着いた。まだ足りないものがたくさんあるみたい。時間なら長く過ごしてきたけど、考えてみたらこうやって触れ合ったこと、ほとんどない。今度はもっと密度を高める番なのかもしれない。

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