─back to menu─

目隠し


 ゴルベーザ様の様子がおかしい。オレ達に何か言いたそうにしながら、口ごもって目を逸らすことが増えている。ルビカンテとバルバリシアは問い詰めてみたりもしてるようだが、なかなか口を割らないらしい。
 おかしいといえばサヤの言動も妙なんだよなぁ。ありゃ何かあったのか? どっちもお互いを避け気味ではあるが、険悪な雰囲気はない。まあ悪い事は起きてなさそうだ、と安心していたところへ、ゴルベーザ様から呼び出しがかかった。
 なんで同じ場所に住んでんのに改めて呼び付けられんだ。しかもオレだけ。ちょっと怖えぞ。
「来たか、カイナッツォ……」
「何の御用でしょうか?」
「うむ。……その……サヤに、結婚の申込みを、したんだ」
「はあ、そうですか。……はい?」
 ケッコンっつうと……あれだよな。結婚だよな。そりゃまた今更な……。何だ、話が見えねえな。まさか断られたってわけじゃないだろうが、ここんとこ妙だったのはそのせいか。

「……どうしたらいいだろう」
「ど、どうって、サヤが承諾したなら結婚すりゃいいでしょう」
「勢いで言ってしまったようなものなんだ。……結婚したら、彼女を帰せなくなってしまうと気づいて……居ても立ってもいられなくなった」
 だからよ、帰さなきゃいいじゃねえか。あいつだってもう、すんなり帰る気にはなんねえだろう。……そこで悩むならどうして冷静になっちまったんだ。そのまま勢いで押し倒しときゃ吹っ切れて良かったのに。
「……なら、形式は後回しにして、まずは帰る気が失せるまで引き込んでしまえばいいのでは」
「そんな日が来るものだろうか」
「ゴルベーザ様が帰るなと命じれば、あいつは聞きますよ」
 そんな命令はしないんだろうがな。今更なんだよ。もう充分だ。優しさなんか必要ない。今まで築いたものでは足りんと言うなら、もっと本音をぶちまけるべきだろう。醜いものを見せ合えばいい。それぐらい、サヤは受け入れるはずだ。
 あいつは逃げ場があるならどこまででも逃げる。手に入れたいなら縛りつけるべきだ。逃げ場があれば逃げちまう。逃げたくないと思っても、貫き通す強さはない。いいじゃねえか別に、楽なように生きりゃいいんだ。オレはサヤがゴルベーザ様の傍にある限り否定なんぞしねえ。
 弱いからこそ擦り寄ってくなら、そのままでいい。……がんじがらめにしちまえばいいんだ。逃げられないなら言い訳になるだろう。苦しめてでも欲しいのだとゴルベーザ様が言えば、むしろ喜ぶかもしれない。

「……帰す方法は分かっているんだ」
「そりゃ、言わん方がいいでしょうなぁ」
 また揺らぐに決まっている。正直な話、帰りたくなくなる日なんぞ来ないだろう。人間ってのはどうも、後悔し続ける生き物らしいからな。……それが何か問題あんのか? 後悔してもいいってんなら甘えときゃいいんだ。
「サヤの望むものが何か分かっていて、見ない振りをして引き留めるのか?」
「ゴルベーザ様……お聞きしますが、あいつを元の世界に帰せるんですか」
「……それは、」
 できないだろうな。以前とは違う。どれだけ遠く感じても、今はもうまともに向き合ってんだ。何もかも隠すことなんかできやしねえ。それでも見ない振りをすべきだ。サヤの望み? 元の世界に帰りたい? それが何だってんだ。帰りさえすればあいつは満足するのか。ゴルベーザ様を置いて帰っても?
 オレにゃイマイチ実感しにくい感情ではあるが、結婚ってのを受け入れるんならサヤはもうこっちを選んでる。本当の居場所を作るのに同意した、ってことだろ。帰っても後悔するんならどっちでも似たようなもんだ。お互い好きなようにすりゃいいんだ。無論オレはゴルベーザ様の意思に従うが。
 ……だがあいつの望みも本当は同じなんじゃねえのか。自分の意思を捩曲げてでも本気で求められたい、なら。それならいっそ、お前が何を望もうが手放さないと言われたいんじゃないか?

「……とっとと子供でも作っちまえばどうです」
「なっ、何故そうなるんだ」
 諦めがつくでしょう、お互いに。サヤが向こうへの想いを捨てられねえのと同じだけ、ゴルベーザ様だって罪悪感を捨てられない。……決着なんかつくわけねえんだ。諦めるしかないだろ?
「何か問題でもありますかね」
「サヤはまだ幼すぎるだろう? 大体あれに不埒な想いを、抱く……のは……」
 それと結婚しようとしてるあんたはどうなんだ、っと……落ち込んでるとこみると自分で気づいたようだな。年齢なんざオレから見りゃゴルベーザ様だって似たようなもんだがなあ。つーか、人間の目から見るならそろそろ急いだ方がいいんじゃないのか。
「まあ、帰して後悔すんのと帰さず後悔すんのと、選ぶのはゴルベーザ様ですからね」
「どちらにせよ後悔するのだな……」
「そりゃあ仕方ないでしょう。……やって照れるか照れてやらないかを決めるのも貴方ですが」
「……な、何の話だそれは」
 少なくともサヤは、何もせずに諦めるより手を尽くして後悔するのを選ぶだろう。面倒臭い奴らだな。闇に塗れてた頃のゴルベーザ様なら即断であいつの意思を無視して手に入れてただろう。……そうでもないか。どっちも、前からサヤには甘かった。
 なんだ、結局変わってねえのか。だったらもう、早く塗り替えちまえばいいのに。

3/17
[←*] | [#→]


[menu]


dream coupling index


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -