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相棒


 妙だなと思って警戒はしていた。いつもなら俺の顔を見るなり、からかったりからかったり普通に挨拶したりからかうはずのサヤが、顔を赤らめ何やら言い出しにくそうにチラチラ見つめてくる。はっきり言って不気味だ。
 警戒はしていた。が、飛び出した言葉はあまりにも衝撃的で、俺の脳裏を突き抜けていった。
「……ゴルベーザにプロポーズされた」
「そうか。…………えっ?」
 ぷろぽぉず? なんだそれはどういう意味だ。身体的なバランス……違うそれはプロポーションだ。挑発行動……じゃなくて……プ、プロポーズ!?
 即座に思い描かれたのは今の姿ではなく、見慣れたかつての二人だった。巨大な黒い甲冑と、その胸辺りまでしかない少女。
「そ、それで……受けたのか?」
「うん、一応」
「一応?」
 サヤは口ごもりあらぬ方を見つめていた。目が虚ろだ。浮かれているでもなく困っているでもなく、何か身の置き所のなさそうな。

「ちょっとお互い混乱してて」
 しかし一も二もなく却下したのでないなら、サヤ自身はその気だってことだろう。……結婚か。こいつを女として見たことなどなかったから、想像できない。ましてやあのゴルベーザと。……夫婦? に、なるのか……。
「……お前、年下か年の近い細身の美形が好みなんじゃなかったか?」
「そうなんだけどね……」
 ギルバートやセシルに憧れていた奴が、ゴルベーザと。あまりに差がありすぎないか。二人の絆はそれなりに理解しているつもりだが……。養子に迎えるとか、そういう言葉でなら理解できるのに。
「カインも、わたしとセオドアがどうこう、って考え、てた?」
「いや……」
 突然言われて首を傾げる。サヤとセオドア。頭の中で二人を並べてその会話を思い出す。何か違う。そもそも、サヤという人間と恋愛という感情が結び付かないんだが。妙に不安そうに俺の返事を待つ少女を見つめる。

 プロポーズは受けた。……一応。何かが引っ掛かっているとしたら、もしかして俺が抱く違和感そのものなのかもしれない。おそらく誰に聞いても似たような反応が返ってくるだろうから。
 べつに反対しているわけじゃない。それを伝えてやらなければ。
「サヤとセオドアでは近すぎるように思う」
「カイン……」
 感極まったような表情に戸惑った。セオドアとサヤ、という意見は何度か耳にした。セシルから、ローザから、シドや……ゴルベーザからも。サヤ自身もそうなのだろうか。四天王の誰かからですら、示唆された可能性もなくはない。
「カインって、わかってくれてるよね……お兄ちゃんって呼んでいい?」
「ば、……せめて兄さんにしてくれ……」
「おお、照れてる」
「いちいち口に出すな」
 指摘されると余計に熱が上がる。……サヤの不安はこれだろうか。ゴルベーザとは似合わない、釣り合わない、例えばセオドアなら、……そう言われることが怖いのだろうか。なぜ、と問われることが。

「……プロポーズを受けたのは、どういう心境の変化なんだ?」
「だっ……と、ときめいちゃったんだもん!!」
「そ、そうか……それはどうしようもないな」
 カアッと真っ赤に染まった顔を両手で覆って首を振る。やめてほしい。自分の恋心に思いを馳せそうになるし、俺の方が照れる。
 ほかでもないサヤ自身が恋を自覚しているなら、俺が……誰がどう考えようと構わないじゃないか。
「カインはどう思う? わたしとゴルベーザが、あの、ああああの、けっ、け……ど、どう思う?」
「……お、落ち着け……っ」
「笑わないでよ! 真剣なんだからー!」
「いや、すまん。……結婚というより……つまり、家族になるってことだろ? いいことじゃないか」
 サヤにとってもゴルベーザにとっても。暗かった顔がパッと明るくなった。不安を解消する程度には役立てたらしい。

「なんか、さ……わたしにも、想像できないんだ。ゴルベーザのこと、好きなのに」
「向こうも焦ってるわけじゃないんだろう」
「うん……一回、冷静になっておこうって」
「ゆっくり考えればいい。けじめをつけたいなら、ゴルベーザにちゃんと本心を話しておけばいいしな」
「……あっ!」
「どうした?」
「わたし、まだ好きって言ってない」
「……言ってこい、今」
「いいい今!? なんか恥ずかしい!!」
「いいから行け、ほら」
 背中を押すと戸惑ったように振り返る。なおも押し出してやると、ようやく決心して駆け出した。……結婚なんて想像できない。幼すぎるだろう、……二人とも。
 急がなくてもこれからはずっと一緒にいるのだから。今はせいぜい恋人気分を味わえばいいと思うんだが。

 ……それにしても……。
「性に合わないな……こういうのは……」
 気恥ずかしさが伝染してしまった。頬から熱が消えない。これが引くまでバロンに帰れないな……。

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