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燃え上がれ
ベッドに座って窓の外を眺めてるふりをする。目を合わせたらヤバイ。ルビカンテは今のところ後ろでぼーっと立ってる。何考えてるのか知りたくないよ。
視界の端からぬるい手が伸びてきた。熱いし暑いし熱いって散々言ったから、かなり抑えてくれてるみたい。まあね、さわるだけならいいんだよ。だけなら。……だけじゃないから、狭いベッドの上で逃げ惑う。
「……なぜ逃げるんだ、サヤ」
「うーっ、だめ、ストップ!」
肩に触れかけた手がギリギリで止まった。これってある意味魔法じゃない? 魔力も篭めてないのに、言葉と手振りだけで止めてしまう。あんまり切羽詰まってると効果ないけど。
「またなのか?」
なにその被害者っぽい顔。だってそっちが悪いんじゃないの。堪え性がない! わたしだってそうだけど……ルビカンテはもっと落ち着いた人だと思ってたのに!
だから……さわるだけならいいけど、他に人がいないとそれだけでは済まないわけで……。ああ、誰か帰って来ないかなぁ! できればゴルベーザかバルバリシア様に帰って来てほしいなあ!
諦めの悪い手がまた伸びてきた。普通に過ごしてるはずなのに、どうしてか流されてる。気づいた時には遅いんだ。だから最初から断固拒否! ……したいところなんだけど。
「なんにもしないなら、さわってもいいんだけど、」
「それは約束できない」
しろよ! 折れる気ないわけ!? 常に全力投球か!
一瞬、あれっ動けない? って考える間に手首を捕まえられて無理やり引っ張られた。今ホールドかけた? 気のせいだよね、ね。暴れる隙間もないほどきつく抱きしめられる。痛くはないけど、びくともしない腕がむかつく。
「なんか、容赦ないよね」
「今更だな」
……自覚あったんだ。前みたいな適度な距離があった方が楽だった。戻りたいとは思わないけど。守らなきゃならない弱い存在でいるよりは今の方がいい。傷つけ合ってでも対等でいられる方が。……だけどそれとこれとは別! ……別、だけど……うーっ。
「……努力はしているんだがな」
結果のない努力はしてないのと同じ、そんな手厳しい言葉をプレゼントしたい。人がせっかくおおらかな気持ちになりかけてたところに、いきなり! いきなり!
「その手をのけろー!」
揉むな、撫でるな、脱がそうとするな! 絶対おかしいよ。ルビカンテは見えない手でも生えてるの? 全力で迎え撃ってるのに、どうもわたしの手が足りてない気がする。
「やだやだ絶対やだ! それ以上なんかしたら……」
「したらどうする?」
言われて思わず固まった。どうする? 嫌いになる、のは無理。殴る、蹴る……避けられておしまいだし。ゴルベーザに言いつけ、られるわけないし、無駄だ。ここまで来ちゃうと逃げ道はもうない。
喜々として押し倒されてもわたしは跳ね返す力がなくて、筋力アップをはかろうかなって最近は考えてるけど、どれだけ頑張っても当たり前のように追いつけないの、わかってるからやる気が出なくて、ちょっと待ってよこれって半分くらい強姦じゃないの?
「……最後までするの?」
「勿論だ」
そんな当たり前みたいに返されるとどうしようもないんですけど。
「……誰か帰って来たら?」
「…………」
何その怖い笑顔。よし決めた。わたしアーシュラに弟子入りする。徒手空拳を極める。
もう諦めムードなのを察して服を脱がされる。状況に拘わらず全部脱がそうとするのはやめてほしい。自分が常時全裸みたいなものだから無神経になってるんじゃない? くそう、やっぱり抵抗する!
「サヤ、無駄な足掻きは止せ」
「ぐぐぐ……」
のしかかった肩を掴んでおもいっきり押してみても、わたしの体がベッドに沈むだけ。わたしたちって対等? ホントにそうなのかな。絶対ひっくり返せないのに。
「わたしが本当に本気でいやがったら、やめてくれる?」
「つまり今は本当に本気では嫌がっていないんだな」
「揚げ足取ってないで答えてよー!」
「……どうかな。もしお前が本気で私を拒絶するなら……」
ルビカンテの手が頬を撫でた。見つめ合った目が細められる。でも、怖くはなかった。言ってることは相当怖いんだけど。
「……この顔を焼いてしまっても構わないと思っている」
殺したいほど好きってやつでもないみたい。死んだらそれまでって二人とも痛いくらいよくわかってる。ただの独占欲。相手を無視してまで手に入れたいって……それを、怖いと思うより先に、嬉しいって思っちゃう。
「皮膚を焼き、肉を爛れさせれば……お前を見る男などいなくなるだろうか」
「……わたし、見た目だけで価値があるほど美形じゃないよ?」
「そうだな。姿が醜くなっても彼らはサヤの傍にいるだろう」
だけどそれはルビカンテだって同じじゃん。……嬉しいけど、わかんないよ。だって、わたしはどうせルビカンテのものだよ。何をしてもしなくても。そんな負けを認めるようなこと、ただじゃ言ってあげないけどね!!
「お願いがあるんだけど」
「……何だ? やめろという願いなら無理だ」
「入れるのはナシじゃ、だめ?」
言う方も恥ずかしいんだからちょっとは聞いてほしい。ルビカンテは微妙な顔。このまま押せばいけそうな気もする。
「途中でやめろと言うのか?」
「……だって……どうしてもダメ?」
「…………」
「そ、そこまで苦悩することかな」
突っ伏して頭を抱えたルビカンテ。あんまり見れるもんじゃない。ってべつに見たくないけど。背中を叩いてみても反応はない。触れずに何日か過ごしても大丈夫なんだから、いいじゃん。ここに至らなければ普通に話もできるのになぁ。
「……駄目だな。途中で止まるとは思えない」
「我慢してくれるならいいこと教えてあげるのに」
「なぜそんな……残酷な事を……」
それはこっちのセリフだよ! 大体ルビカンテは一回が長いんだよ! わたしが言ったこと守ってくれてるけど、なんか都合よく解釈してるよね? 一回一回をギリギリまで引き延ばしてるよね!? そっちの体力に合わせて限界に挑まれたらわたし死んじゃうよ。
長くなるにつれて耐えられないくらい熱くなるし。あと毎回中に出されるのも嫌だ。モンスターなんだから仕方ない……と思い切れない。だってわたし人間だし。かといってこっちも余裕ないからそんなこといちいち突っ込んでられないし、素面で言うのも恥ずかしい。
「……くっ……やはり無理だ。それは……できない」
わあ、そんな苦しんでるの初めて見たかも。どうしようぶん殴りたい。
「……最初からしないって手もあるよ?」
「無茶を言うな」
なにが無茶だ。これだけは言いたくないってセリフがある。でも我慢できない。ばかみたいだって、すごくイヤなのに、懲りずにばかやるのが人間なんだよ。きっとまた後悔する。
「……ルビカンテは、わたしの体だけが目的だったんだね」
「何を訳の分からない事を」
「エッチできるならわたしの気持ちなんてどうでもいいんだー」
「……お前は心と体を分けて考えられるのか?」
ああ、いや、そういうことじゃないと思うんだけど。そりゃ嫌いな人には抱かれたくなんかない。でも……。
「そういうのって、最低限わたしに抵抗できる力があって言えることだと思うよ……?」
あ、やばい。ルビカンテが泣きそうな目をしてる。たぶん、言葉を間違えた。
「あの、ね、今まで嫌なのに我慢してたとかじゃないんだけど」
「私は、無理にサヤを傷つけたいわけでは……」
「わかってるよ!」
ちがう。そうじゃなくて、ただ、もっと……ゆっくり穏やかに過ごしたいんだよ。焦らなくても大丈夫だって思いたいのに。今しか存在しないんじゃないかって、未来なんか残されてないんじゃないかって、怯えながら一緒にいるのはもうイヤなの。
わたしも泣きそうになった。なんて言えば伝わるのかな。
「……お前の体の事は私が一番よく分かっている」
そうは思えないよ?
「死ぬような目には合わせるかもしれないが、絶対に死なせはしない」
ぜんぜん安心できないし……。
「だから、サヤが応えられなくなるまでは、好きにさせてくれないか」
「……わたしがおばあさんになっても捨てない?」
「お前は……その程度の事で私から逃げられると思っていたのか」
うーん。ダメだ。相変わらず優しさの方向がズレてて、素直に喜べないや。あーなんかもうめんどくさくなってきたー。
これが男と女の戦いなんだね。そして少しずつ流されて許しちゃうのが女ってものなんだ。恋心が身勝手さに怒って、怒りながら許してしまうのが、愛なのかも。ううん、知らないけどきっとそう。
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