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ルビカンテ


 冷えた上半身に毛布を纏って、サヤはぼんやりと天井を見据えていた。数え始めてから3分が経つ。ルビカンテは戻らない。
「……迎えに行けと?」
 上半身裸のまま入口まで回り込み、さらに街中を歩いて最奥の屋敷へ。あまり気が進まなかった。しかし自分の服を握りしめて倒れているルビカンテというのも、発見する人によっては困った展開になる。
 あと2分だけ待とうと決めたとき、コテージの戸に何かがぶつかる音。跳ね起きて戸を開けた途端、ルビカンテが倒れ込み、支えきれずに二人して床に転がった。
「だっ、大丈夫?」

 したたかにぶつけた尻の痛みに眉をしかめながら、自分の腹に顔を埋めて咳込むルビカンテの背中をさする。人並み程度には熱が戻っていることに安堵した瞬間、下腹部に強い刺激が与えられた。
 ルビカンテの手が内股を這いまわり、ずらされた下着の隙間から舌が差し入れられ、熱くぬめるものが割れ目をなぞる。隠唇に吸いつき舌先で突起を責め、先の湿り気が残るそこに指を押し込む。激しく抽挿を繰り返しながら左右に揺らす指の動きは、快感を煽るよりもただサヤの体を押し開くためのものだった。
「ああぁっんっ、なにやっ、あはぁっ、ちょっ! 待って、中で、ちゃんと中にぃっ」
 必死の懇願に舌が離れ、息をつきかけたサヤは次に訪れた感触に身を強張らせる。挿入された二本の指が中で広げられ、入口に硬く張り詰めたものがあてがわれた。
「やだ、待ってってば! ちゃんと、」
「分かっている……中、に……」
「ばっ、そういう意味じゃないっ!! 部屋に入るまで待ってよっ」
 そのまま入れたら殺してやると念をこめてルビカンテの首を絞める。困ったような瞳がじっと見つめていた。

「……私はもう、一歩も動けない」
 だったらどうして一部そんなに元気なのかと突っ込みたかったが、ルビカンテの纏う炎のマントが、チリチリと床を焦がしているのを、サヤは見た。力は戻りつつあるのにルビカンテの体温は低い。自分を支える腕が震えてしまうほど余裕をなくしているくせに、サヤを傷つけないために、それだけのために、熱を抑えている。
「ばかっ……ホントに、もう……!」
 なんだか笑いだしたくなって毛布に包まり顔を隠した。拒絶されたのかどうかもよく分からず、ルビカンテがほとほと弱った声を出す。
「サヤ……顔を、見せてくれ……」
 迷っていた。いつだって甘やかされるばかりで、ルビカンテを拒絶する必要など、今まで一度もなかった。嫌いなんて言えるはずがない。もう嘘ではないのだから。嘘ではないのなら。傷ついても傷つけても、欲しいというなら……。こんな状況で言葉なんて馬鹿馬鹿しいだけかもしれない。

「ルビカンテなんか、……」
 小さな呟きは毛布に吸い込まれて、肝心なところが届かずルビカンテは焦っていた。これ以上拒絶されたら、どうなってしまうのだろうか。悲しみと欲情が一体となって、今度こそサヤを焼き尽くしてしまうのか。
「……もーいい。もー知らない。……あとでちゃんと、回復してね」
「え」
 サヤの心が分からないまま、丸まった毛布が開き、ルビカンテを薄闇に引き込んだ。黒に染まった視界の中で頬が擦り寄せられた。背中にまわされた手の温かさと、その強さが、何を物語っているのか。分からない。分からないけれど……。
 触れ合う箇所がすべて熱い。滾りを擦りつけると濡れた秘所が誘うように湿った音を立てる。このままぶつけてしまえば手に入るだろうか。サヤの両足を抱え腰を落とす。どうせ止められないと知りながら、ルビカンテの迷いは消えなかった。
「サヤ……」
「んっ、……は、ぁ……」
「サヤ……、好きだ」
 本当にいいのか。彼女の心はどこにあるのか。聞くべきか、押し切るべきか、捨て切れない迷いから引きはがすように、サヤの手に力がこもった。受け入れなくてもいい。ただ分かってほしい。どれほどの思いなのかを。
 体重をサヤに預け、その鼓動を感じながら、ルビカンテは想いのすべてをこめて彼女を貫いた。

「っ、あああぁあッ!!」
「サヤ……、サヤ……ッ!」
 二人とも互いへの気遣いも忘れたまま、爪を立て噛みつき、腰を打ちつけ繋がり合った。接合部から血と愛液の混じったものが滲み出て、狭い空間に音と湿度が充満する。痛みから気を逸らそうとしたサヤがふとした一瞬肌を撫でる何かに気づくが、突き上げられる勢いに掻き消される。
「あ、あぁっつ、うぁ、はぁっんん、ア、あああッ」
「サヤっ……う、くっ……!」
「ふぁ……あ……は、あ……?」
 自分の中を蹂躙し、今なお脈打ち精を吐き出し続けるものの感触に、虚脱感と満足感のないまぜになったものに満たされながら。見てしまった。自分たち二人を取り巻き、被った毛布を消し炭に変えながら生き物のごとくうねる炎を。
「……マント……じゃ、な……わああっ、燃えてるっ、熱ッ、死んじゃう! ルビカンテー!!」
「……続きをしてもいいか?」
「あぁッんっ、ばかっ、それどころじゃ、あ、やっ、動かな、あ、あ、まっ、まわり見て!」
 未だ収まりのつかない怒張でサヤを揺さ振りながら、周囲の異変を見てとり、ようやくルビカンテの動きが止まった。

***


 焼け落ちたコテージを前に素裸で黙り込むサヤに、もはやルビカンテは何から謝ればいいか見当もつかなかった。
「……その、いろいろと……大丈夫か?」
「…………」
「自制がきかなくて、つい」
「つい、でわたしを殺す気!?」
「いや……あの……」
「服まで燃えちゃったし! 裸で帰れって言うの?」
 顔を真っ赤に染めて言い募るサヤの全身を、ルビカンテの視線が隈なく探る。火照りの消えない肌。足を伝う行為の跡。白日にさらされた肢体が狂おしく目を引いた。
「……もう少しさせてくれれば、家までテレポするぐらいは」
「充分元気じゃん! ……いつもの紳士っぷりはどこ行ったのかな……」
「好きな女を前に冷静でいられるものか」

 淡々と告げられた言葉が、好きだとか愛しているとかいう囁きよりも熱く、サヤの胸を焦がした。女扱いなんてしたことがなかったくせに。どうやら本当に惚れられているらしいと改めて自覚して、ルビカンテの行動に対する反応が遅れた。
 驚く間もなく突き倒され、地面に手をつく。片足をルビカンテに抱えられ、不安定な姿勢のまま秘所をさらけ出したサヤの頬が羞恥に染まった。
「な、なに……離し……っ」
「まだ足りない。今すぐに君を味わい尽くさなければ」
「っ、ひ、……あぐぅぅッ!!」
 明日はもう訪れないかもしれないから。サヤの片足を抱えたまま、より深く繋がる。先程とは角度の違う挿入に内側から生々しい感覚で掻き乱された。足を開かれ根元までルビカンテをくわえ込んだそこが淫靡な音を立て、聴覚に快感を訴える。赤く染まった耳が熱を発し、急に風が冷たくなった気がした。
「やはりすべて見えた方がいいな……」
 陶酔したようなルビカンテの言葉がサヤの羞恥心を煽った。すべて。ルビカンテからは繋がり合った部分までまる見えなんだと自覚した途端、頭が真っ白になった。体を捩って顔を地に伏せる。草が頬を撫で、ルビカンテが突き上げる動きに合わせて腰や乳房をさらさらと掠めた。
「ああっ……んっ、ひ、あぁ……はぁっ……」

 顔を覆う腕の中、揺さ振られ流れた黒髪の隙間に、色づいた頬がちらちらと見える。恥ずかしがって隠れる幼げな表情と、胎内を満たす熱を離すまいと絡みつく肉が、混じり合い明滅しながらルビカンテを追い立てる。
 やはり愛おしい。欲に塗れた愛では、優しさだけを与えられない。それでも好きだ。この姿を他の誰にも見せたくない。この体も心も、誰にも渡したくない。……渡すものか。
「サヤ……好きだ……。やはり嘘になど、ならなかった……それでも私を拒むのか」
 唐突に止んだ抽挿に、サヤの膣が余韻に震えて、ルビカンテは眉をしかめた。抱えあげた足を離して繋がったままサヤの腕を引き、自らの上に座らせる。快感に鋭敏になった体が、動き一つ一つに反応してルビカンテを締めつけた。
「愛している」
「あ、あ、」
「返事は?」
「い、いま、むり」

 下腹部から伝わってくる甘い痺れを逃がそうと、サヤがふるふると頭を揺らす。倒れそうになる体を、ルビカンテの胸に手をついて支えた。
「あと、で、言う、から」
「……から?」
「うぅ」
「言ってくれなければ、分からないな……」
「……こんなに意地悪だって知ってたら……最初から……嫌いになれたのに……」
 明日まで待てとサヤは言った。その想いが真実だと確信できるまで、待たなければ後悔すると。ルビカンテが嫌いだと、今日は言われていない。……今までにも言われたことはなかった。……嘘の間だけ……。
 交わるのは嫌だ、それだけは絶対に嫌だと言った。偽りが剥がれ落ち、すべてが白日に曝された今、ルビカンテとサヤは繋がっていた。……これでは、馬鹿だと言われても仕方がないな……。
「サヤ」
「あぁッ! っ、急に、動かないで!」
 骨が軋むほど強く抱きしめる。内と外でサヤの熱を貪り、ルビカンテはようやく自分が満たされていくのを感じた。

「今日一日、街に帰らなければ、服は必要ないな?」
「……まだ……昼間、なんですけど……」
「心配するな。明日の同じ時間まで抱いていても私は平気だ」
「殺す気なんだそうなんだ……!」
「愛しているよ、サヤ」
「だったらいたわってよー!」
「泣き顔もそそるものだな……」
 サヤがふと黙り込んだ。じっと覗き込む目に、なぜだか気まずさを感じる。何か見落としているような、墓穴を掘ったような。ルビカンテの背にゆるゆると不安感が沸き上がってきた。
「ルビカンテの泣き顔も、けっこう可愛かったよ」
「………………サヤ……」
「なに?」
「忘れさせてやろう……無理矢理にでも……」
「ええっ、ちょっ! や、あぁっ」
 押し倒されて見上げた空の真上に太陽が輝いていた。明日の訪れはまだ遠い。どうせもうバレてはいるけど、言葉で伝えるのはもっとずっと先にしようと、サヤはひそかに復讐の決意を固めた。

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