─back to menu─

逃がさない


 人の姿でいりゃ気が紛れる、とも思ってた。べつに同じモノになった気になるわけじゃないが、姿だけでも人間でいれば同じ視点で景色を見ることもできる。サヤの全身をちゃんと見ることも、こうやって抱き合うこともできる。
 ありのままを曝せと言うが、それじゃせいぜいサヤがオレに寄り掛かる程度で、こっちにゃ感触もろくに伝わらねえ。岩にもたれてんのと変わらんだろ。
 でも岩はカイナッツォじゃないし、カイナッツォは岩じゃないもん、って阿呆か。オレの側の問題だ。甲羅に胸が擦れたって一つも嬉しくねえ。全身で味わわせろ。
「だ……、も、だめ……」
「なんだよ終わりか?」
「きゅ、休憩してください……」
「オレを満足させたけりゃもっと体力つけるんだな」
「うぅ……体力でカイナッツォに、追いつけるわけないじゃん……」
 ぐったりと寄り掛かってきた体を力任せに抱きしめる。押し潰されて狭くなった中が苦しいのか、サヤが小さく呻いた。しかしまあ……こっちの形に合わせられるのも確かに気に食わないか。元の姿の方が好きだとまで言われると、なかなかいい気分だしな。好意を喜んじまってる時点で染まりすぎだ。

 ……適当に相手してりゃ醒めるはずだったんだがなぁ。結局オレの方が引きずり込まれてんじゃねえか。
 居眠りしてる間にぼーっと思い浮かべてた、あれは多分、夢って奴なんだろう。その情景を思い出すまでもなく目の前に同じものが広がってる。あえて言葉にするなら、惚れてるんだろうな、とっくに。言わねえけど。何なんだ。後押しを待ってんのかオレは。
「サヤ……」
「う、ん」
 お前まだオレの気持ちが欲しいか? 聞いたら満足しちまうんじゃねえのか。今更それはねえよな? いっそのこと直接サヤの意識を探りたくなることも多い、が……それは駄目だな。こいつの頭ん中は素直すぎる。できる限り見たくねえ。
「……しっかり頑張れば、お前の言うこと聞いてやるんだがなぁ」
「だ、だって〜!」
「こりゃずっと人間のままでいるしかねえか」
 この体勢ならどう頑張ろうがそのうち好き放題させてもらうけどな。主導権握られんのは気に入らんが、サヤが自分からってのもそれはそれで……ああくそ、迷う。決めかねて手の中に収まった尻を揉んでみる。
 こいつ痩せたか? オレとしちゃ太りすぎぐらいでもいいんだがな。

「……えっと……」
「んあ?」
「ど、どうしよう……あの……」
 俯いてもぞもぞしていたサヤがハッと顔を上げる。間近に迫ったと思った瞬間、唇が触れていた。ちゅっと小さな音を立ててすぐに離れる。
 おいおい、なんだその純朴すぎるねだり方は。この馬鹿いつになったら成熟するんだ……いや、変にこなれるよりはいいか。
「……あーもう」
「だ、ダメ?」
「……ま、昼の間は戻ってやるよ」
「夜は!?」
 夜は人間になっとかねえと困る……ってちゃんと意味分かってて言ってんのか、こいつ。どっちの方がいいとかいう問題じゃねえだろ。
「てめえオレにお預けくらわす気かぁ? いい度胸だな」
「ちが、だから……すればいいじゃん」
 今すでにへたばってる奴が言うことじゃねえな。
「オレはこの体勢が好きなんだっつーのに」
「わたしだってカイナッツォの甲羅の下にもぐるの好きだもん」
「……わりとすげえこと言ってるぞ、サヤ」
「我に返らせないでー!」
 顔を真っ赤にして手で覆っている。一応恥ずかしいこと言った自覚はあるのか。あー、どうも気持ちが傾いてんな。我ながら単純だ。だがそう素直には聞いてやらねえ。これがオレのやり方だからな。

「おい、掴まっとけよ」
「え……?」
 サヤの手をとって自分の首の後ろにまわす。両手の指を組ませてから、内股を抱えて腕に乗せる。さすがに腰までは届かないから尻を掴んで支えてやる。
「ほぉ、なかなかの眺めだな」
「やっ……どこ見てんの……!!」
「どこって、何だ。言ってほしいのか?」
 頬がにやけるのを抑えられずに尋ねればサヤが勢いよく首を振る。どうせなら縦に振れよ、いやというほど事細かに説明してやるのに。
 そんなに顔を赤くして大丈夫なのかと聞きたくなるな。足を乗せたまま腕に力を入れるとサヤの上体が不安定に後ろへ傾いた。足を閉じようともがくが、バランスが悪く手も離せないためうまくいかない。サヤが身動きするたびに、繋がった部分からオレの吐き出した白濁液が溢れてくるのが、真っ正面からまる見えだ。
「……理性が飛びそうな光景だなこりゃ」
「めちゃくちゃ冷静に言わないでよ……!」

 顔を下に向けたまま視線でサヤを窺う。抵抗を諦めつつもオレを見るのが恥ずかしいのか、目一杯首を捻って横を向いていた。……突き上げてえ。が、今やるとこいつ手を離すかな。すると後ろにこけて頭を打つ。
 この姿勢を諦めて滾ってるもんを宥めるか、我慢してもうしばらく眺め回すか……それが問題だ。
「…………くそっ……選べねえ……」
「もぉ、やだ……これ……恥ずかし、……」
 前者だな、うん。もったいないがまた見ればいい。そうしよう。どうせこれ全部、オレのものだしな。

12/26
[←*] | [#→]


[menu]


dream coupling index


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -