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我が名は


 自分を乙女だなんて言う気はないけど、わたしもやっぱり女だから、そりゃあ好きな人とイチャイチャしたいなって気持ちはあるよ。でもわたしを甘やかしまくって大事にしてくれるカイナッツォって、それはそれで気色悪いかもね。
 わたしが寄り掛かる。カイナッツォは避けない。手を繋ぐ。振り払われない。傍で寝る。起きるまで待っててくれる。間に横たわるものの大きさがいつまでもつらくて、だから小さなことでこんなに嬉しい。
 ……単純な触れ合いは好きだ。人間の姿をとってる時くらいしか、あんまりさわらせてくれないけど。そう、だから嬉しい。嬉しいんだけど。困ってはいないけど。
 けど、だけど……戸惑う? なにが起きてるのかな、これ。肩にかかる重み。視界の端にちらつく黒髪。呼吸に合わせて少しだけ揺れてる。その無防備さ。……寝てる。魔力を養うための魔物の眠りじゃなくて、これはいわゆるアレだよ。

「……………おぁっ!?」
「あ、おはよう……」
 カイナッツォの頭がわたしの肩からずれてガクッと落ちた。なんだなんだって顔でキョロキョロしてる。今更だけど、表情豊かになったなぁ。
「な、なんだ今、なにが起きた!? 記憶が飛んでんだが」
 あるよねえ、どっかから落っこちた感じがして目が覚めるの。あの浮遊感、気持ち悪いのになんかはまる。けっこう好き。まあそんなことどうでもいいんだけど。
「それはたぶん、いわゆる、居眠りってヤツだよ」
「…………ああ?」
「人間ぽくなってきちゃったね」
 いい天気だから……うとうとしたなんて。わたしが呼んでも起きないほど深く眠ってた。獣だってぐっすり爆睡はしないんじゃないかな。魔物のカイナッツォがそんなに無防備に『人間らしさ』を曝してる。近づいた、なんて喜べない。
「やっぱ、まずいな……」
「だから人間に化けるの、控えた方がいいってば」
「…………」
 この話になるたびに眉間にシワが寄る。オレはオレだ、どんな姿でも関係ないだろって。そりゃそうなんだけどね? でもわたしが好きになったのはカイナッツォで、この姿はカイナッツォじゃないんだもん。慣れろって言われても困る。
 どうしてそんなに人間でいたがるんだろう。そうやって少しずつずれて、居眠りなんかした次は何が起きるの? ……喜べない。人間に近づくほど、本来の在り方から遠ざかってる気がして……もしそれがわたしのためなら、嬉しくて、つらい。そのままでいてほしいのに。

「サヤ」
「え、」
「お前なんでオレが人間に化けるのを嫌がるんだ?」
 睡眠初体験のカイナッツォは微妙な顔で考え込んでる。わたしもたぶん微妙な顔してるんだろうな。なんで、なんてわかりきってるのに。……うー、わからないのかな。
 どうしてわたしの心を読まないんだろう。その方が簡単なのに……でも、そこはちょっと嬉しいんだよね。わたしのこと全部知っててほしい、それは自分の口で伝えたい。わたしとカイナッツォ、どこがどんな風に違うのか、ちゃんとわかっていたいんだ。
「それが嘘の姿なんて言わないけど……カイナッツォにはカイナッツォでいてほしい」
「分からねえな。格好だけでも同じでいられた方が嬉しいんじゃねえのか」
「……カイナッツォはそう思うの?」
「……………………まあな」
 それはそれで……嬉しい……かも。時々本音を打ち明けられると、恋をしてる自分が戻ってきて、頭の中がふわふわする。ああもうどうでもいいや、全部カイナッツォに預けちゃおう、なんて。ダメだよそれは。カイナッツォにありのままでいてほしいんだから、わたしもそうしなきゃ。

「……えっとね、単純に言うと、たぶん、元の姿の方が好きなんだよね……」
「はあ?」
 うう、なんかもごもご声が小さくなる。大事なことなのに、ちゃんと伝えなきゃいけないのに。
「……」
 怒ったような顔で黙り込んでたカイナッツォか、急にわたしの手を引いた。胡座をかいた膝の上に座らせられる。正面から向き合って、カイナッツォの腕が腰を、っていうかそこはもうお尻、を支えてる。
 至近距離だし……体勢もなんか……黙ったまま見つめられるのもちょっと……。ううう、絶対わたし赤くなってる。
「……これが捨て難いんだよな」
「え、どういう……」
「人間にでも化けなきゃ、できねえんだよ、この格好」
 はあ、と大袈裟に溜息をついた表情が、見たことないくらい悲しそうで、ついごめんねって言いそうになった。いやいやいや、違うでしょ!? そういう話じゃないじゃん!
「わたしこれやだ、すっごい恥ずかしいん、」
 そういうことでもなかった! 慌てて口を閉じて、腕を突っ張ってダメ絶対、の意志表示をしてみる。たぶんもう遅い。意地悪そうな顔でニヤニヤしてるし。
「ま、安心しろ。いくら近づいたって人間にゃなれねえ、オレはオレだ」
「……そうだね。亀だろうと人間だろうとエロは治らないもんね」
「ああん? オレは単にお前を抱きしめるのが好きだと言ったんだがな。何を考えてたんだ?」
「……嘘つきー!」

 どっちだって一緒なのはきっと、わたしはカイナッツォに敵わないって事実かな……。好きになった方の負けなんだ、ホント。違和感がなくなるまで一緒に生きればいいのかな。どんな姿でいても、目を閉じてても、目の前にいるのがカイナッツォなんだって心の底から実感できるくらい。……でも、でもー。
「……半々にしよう?」
「さてどうするかな」

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