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「近頃、着飾ってますね」
 わたしが身につけたアクセサリーを見つめつつ、なんとなく嬉しそうなセオドアが呟いた。
「そうなんだよねー」
「カイナッツォさんがくれるんですか?」
「うん。なんか、装飾品ばっかりなのが怖いんだけどね」
 一体どこから入手してきてるんだろう? そんなにお金なんて持ってないはずなんだけど。……あんまり深く考えたくないな。
「そうですね……その髪飾りなんかは、うちの母経由で渡ったものじゃないかと思います」
「……えっ?」
 それってどういう……。ローザがカイナッツォにくれた? なわけないよね。カイナッツォ、髪ないし。ってそんな問題じゃなくて。ローザから、カイナッツォに……ありえない。じゃあなんで? この髪飾りはローザの。ローザのものが、カイナッツォに。で、今わたしの手に。……。
「うわあ! ごめん、返す! カイナッツォにはちゃんと怒っとくからー!」
「え? ああ、構いませんよ、母さんの私物だし。国のものには手を出されると困るけど」
「国のものでもローザのものでも駄目だよ! ……えっ、バロンの国庫にも手をつけてるの!?」
 過去の経験を悪用してる……! だめだわたし、どうもやつらが悪者だって、忘れちゃうよ。

「カイナッツォさん、物を贈って伝えることにしたみたいですね」
「う、うん……わかりやすいし嬉しいけど……」
 盗品はだめでしょ……。絶対あとで怒らなきゃ。聞いてくれるかわかんないけど。あああ、今までもらったもの全部ひっくり返して持ち主探さなきゃ。……めんどくさい! どうしてもっと早く疑わなかったんだろう。相手はカイナッツォなのに。
「そうやって着飾ったサヤさんは、カイナッツォさんの所有物って感じでいいと思います」
「ええっ、なんなのその際どいセリフ」
 そんな爽やかな笑顔で言うことじゃないよね、それ。所有物って。……わたしは、カイナッツォの、所有物……。わたしのこと、手放したくないって、思ってくれてるのかな。言葉の代わりに物をくれてるんなら、そう思っていいのかな。もしかしてそうかも、って思ったことはあるけど……改めて人から言われると……。
「サヤさん、顔が赤いですよ」
「うあああ〜! セオドアはなんでそんなに嬉しそうなのかな!」
「ずっと見守ってきたから……サヤさんの思いが叶うのは、僕にとっても嬉しいです」
「思い、叶ってるん、だよね……」
「まだ実感できませんか?」
「ううん、そうじゃないんだ」
 なんか、うまく受け止められないだけ。カイナッツォからこんな風に物をもらうことなんてなかったし、ましてやそれが独占欲を孕んだものだなんて、ありえなかったし? 本当に、前とは違うんだ。違う関係に、なったんだ。なんかちょっと恥ずかしい。今更なのにね。

 友情か恋愛かなんて区別もなく、わたしだけが一方的に求め続けた期間が長すぎて……応えてもらえることが嬉しすぎる。求めたものが手に入る、喜びの大きさに心が震える。言葉でなくても、感情でなくても、求め合ってるって実感できる。なんて、幸せなんだろう。
「……でもやっぱり盗品はだめだよね」
「物が不満なら体で、ってことになりそうですけど」
「それはそれで嬉し……いや、えっ!? そ、そんなこと……」
 言いそう、すごく言いそう。ニヤつく顔まで浮かぶよ。そういえばこないだ銀製の腕輪をくれたとき、こんなんでいいのか? って妙に意味ありげに聞かれたっけ。
 やたらといろいろくれる割に、何が嬉しいのか分からないとか、他に欲しいものないのか、不機嫌そうに言うし。最近、触るか触らないかの微妙なところで避けられてる気がするし、一緒に寝てても襲ってこないし。

 ……べつに寂しいんじゃないけど、わたしから言うのもどうかと思うし、したいとかじゃないんだけど、やっぱり好きな人と並んで寝てて何もないのも不満というか、だからって襲われたいわけじゃなくて、ただ急にどうしちゃったのかな、わたし何かしたかなって、
「……サヤさん?」
「うあっ、ははははい!」
 ニコッと笑って何も言わないセオドア。なんか見透かされてるー! 違うよ、べつにそんなんじゃないんだって! 決して不純な気持ちじゃなくて、もっと純粋に、単純に触れ合いたいなって、変な意味じゃなくて手を繋いだりそんなことでよくてそりゃそれ以上の触れ合いだって嬉しいけどそんな話がしたいんじゃなくてだからだからだからそうじゃないんだってば。
「ううぅ、セオドアがわたしを追い詰めるー!」
「案外、サヤさんが言うのを待ってるんじゃないでしょうか」
「ス、スルーされた……待ってるって、なにを?」
「わたしが欲しいのは物なんかじゃなくてカイナッツォなんだよ、と」
「そんなこと言えないよ!」
「物の方がいいんですか?」
「え、いや……あの、何かをもらうのだって嬉しいよ? けど、」
「けど、カイナッツォさん自身をくれた方がもっと嬉しいんですよね」
「う、うん……ううん!?」
「恥ずかしいなら、僕が伝言しましょうか」
「その方がよっぽど恥ずかしいよ!」
「じゃあ、頑張ってくださいね」
 えええっ、なんで? ただ盗品をプレゼントされても困るって話だったのに。わたしもしかしてセオドアに弄ばれてる? ……だから、わたしにくれる物を探しに行く時間の分だけ、一緒にいられたらもっと嬉しいなって、そう! わたしが一番ほしいのは、カイナッツォの時間です、と! やましい気持ちはぜんぜんないんだよ、と!

「あ、カイナッツォさん」
「ぎゃーちがうちがう体だけでもいいじゃなくて体もいいよねとかじゃなくてべつにやらしいこと考えてなんかあああああなに言ってるのわたしー!?」
「……だと思ったけど見間違いでした」
「セオドアがいじめる……!」
「それじゃ、僕はそろそろ帰りますね」
「セオドアが冷たい……」
「サヤさん」
「は、はい?」
「いつか、言葉ももらえると、もっといいですね」
「……うん」
「僕にできることがあったら何でも言ってくださいね」
「……セオドア! 大好き」
「僕も大好きです」
 ああ、その笑顔。やっぱり敵わない……。もうどれだけ助けられたかわかんない。セオドアが大事だよ。すごくすごく大事。しかも、ちゃんとそれを分かってくれてる。誰かを好きになる。好きだって言ってもらえる。なんて、なんて幸せなんだろう。

「……カイナッツォに好きって言いに行こっと」
 ついでに、頑張って素直になってみよう。他人のものじゃなくて、カイナッツォ自身がほしいんだって。変な意味にとられるかもしれないけど、我が儘言うなって怒られるかもしれないけど、やっぱり伝えよう。もらえたもの全部がうれしくてたまらない。言葉じゃなくても、同じ感情じゃなくても……、ちゃんと実感してるよ。
 それで、できたら、もしできたら、わたしはカイナッツォのものだよ、って。…………だめだ! やっぱり言えない!

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