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蒼い夜


 硬い甲羅と水の魔力を帯びた青い体が月明かりを弾く。ぼんやりそれを見上げながら、やっぱり本来の姿の方がいいなって思う。中身はカイナッツォだって頭では分かってても、他人の姿を借りてるんだってどうしても気になっちゃうんだよね。
 さらけ出した肌を冷たい夜風が撫でた。背中の下で押し潰された草が動いて、くすぐったさに身をよじる。
「……やっぱり外は寒いね」
「なんなら家に戻ってもいいぜ?」
「それも困る……」
 ゴルベーザやルビカンテなら知らないふりしてくれるかもしれないけど、わたしが恥ずかしさに耐えられないし、バルバリシア様が同じ家の中にいると思ったら、とてもそんな気になれない……。でも、こんな夜中に二人して出かけちゃったら、もう手遅れなのかな。
「うー、わたし何してるんだろ……」
 そうまでして、したいのか! こういうのは我に返っちゃダメなんだ。どうしようもなく恥ずかしくなってきた。舞い上がりすぎてるのかな。自制心なんて、とっくにどこかでなくしてきちゃった。

「……恥ずかしいんだから早くしてよ!」
「そのまま気が変わってくれりゃ、ありがたいんだがなぁ」
「それはちょっと、無理」
「いやらしい奴……」
「若いんだから仕方ないよ! ……カイナッツォは、したくないの?」
「……いや、まあ、それはそれ、これはこれだ」
 なにそれ意味わかんない。肝心なところでごまかさないでよ……。同じ言葉も感情も、返してもらえるなんて思ってない。最初からわかってて好きになったんだ。……そりゃ、もしかしたら、いつかは……なんて思わなくもない。でも今はただ……どんな形でも、わたしが求められてるってだけで、嬉しくて嬉しくて。だから、たった一言でいいのにな。……わがまますぎるのかな。
「本っ当に本気でやるからな。後悔しても知らんぞ」
「……カイナッツォのくせに、いろいろ考えすぎ」
「お前が考えなさすぎなんだよ」
 だって、考え込んでもいいことなんかなかったもん。悩んで立ち止まってる間に、なにもかもわたしの手をすり抜けていった。……後悔したっていいよ。でも、同じことを繰り返すのは嫌。ほしいものが手に入るなら、ボロボロになってもこの手を伸ばし続ける。
「言っとくが、前より断然痛いぞ」
「……っ平気だよ!」
「声裏返ってんじゃねえか」
「もう〜、いいから! ここまできたらもう、戻れないよ!」
 これ以上問答するのは、いろんな意味で耐えられない。大きすぎて抱きしめられない甲羅の端につかまって引き寄せる。逆にわたしの体が浮いて、ぶら下がったままのアンバランスな姿勢でカイナッツォの首に口をつける。唇から冷たい感触が伝わってきた。

「……途中でやめろって言うなよ」
「うん!」
「……あー、もう」
 やけくそじみた声に不満を返す間もなく、冷たい何かが足に絡みついた。驚いて閉じた太股を、細い糸のように隙間を縫って、何の抵抗もなく入り込んでくる。
「なっ、なにこれ……冷た、や、んっ!」
 するすると伸びてきた水流は、わたしの一番熱いところへ難無く侵入した。中で形を変えると、無数の小さな粒になってせわしなく動き回る。氷みたいな冷たさと掻き回される感触で、甲高い声が漏れた。浮いた腰の下にカイナッツォの腕が差し込まれて抱きすくめられる。
「っ、うぅ……冷た、い」
「我慢しろ、手だと危ねえだろ」
「はぁっ、あ、あっ」
 大きな手がそっと胸に触れた。爪が肌に食い込まないように、手の平で押し付けて撫で回す。内から外から冷やされてるのに、体の奥がどんどん熱くなる。わたしの中で遊ぶようにくるくるまわっていた水の塊が、また細い流れに変わった。溢れ出る愛液を掻き出すように勢いよく流れ出て、襞をなぞりながら逆流して胎内に戻ってくる。
「やだぁ、あ、あんっ、はっ、あぁッ」
「何が嫌なんだ。ここまできたらもう、戻れねえんだろ」
「ああっ、だ、って、こんな……んんっ」

 乳房を持ち上げるように揉みながら指先で先端を突き、交互に口に含んで吸い上げる。舌で転がされるたびに反応する自分が恥ずかしくて、何が起きてるのかが目に入らないように空を見る。
 輝く月。まるで、見つめられてるみたい。自分がどういう状態なのかを、他人の目で見たような気分。冷静になりかけた思考を快感が吹き飛ばす。
「っん! だめぇっ、そこ、あぁっ……く、ぅう」
「こりゃ水じゃねえよなぁ?」
「んっ、はぁっ、うぅ、やめ、ふぁ」
 カイナッツォの尾の先が、くすぐるように割れ目を撫でた。中で蠢く水の動きに合わせて押しつけられ、聞こえよがしににちゃにちゃと粘ついた音をたてる。硬い皮膚が肉芽を擦りあげると、体中に電流が駆け巡った。全身を責め立てられて、思考ごと体が溶けだしそうだった。
「あ、っう、息、で、できな、ああぁっ」
「そうか」
「んっ、んん〜!」
 助けてほしくて言ったのに、追い詰めるように口を塞がれた。柔らかい舌が入り込んで、喉まで舐め回される。胎内で渦を巻いてた水が、太くなって流れ出した。漏らしてしまったような恥ずかしさが快感を増幅する。口と胸が解放されて、絶頂の間際にすべての愛撫が止まった。

「っは……、はっ、はぁっ」
「なあサヤ」
「あ、う」
 中途半端な快感の余韻に体を持て余してまともな返事ができない。体の奥が燃え盛るように熱くて、抜け出した水を求めて疼いてた。
「このまま無理して入れんのと、痛みも感じないほどおかしくなるまでイきまくるのと、どっちがいい」
「い、……っい……て」
「ん? イかせてくれって?」
ちがう! アレであんなにアレなのにそんなことになったらどんなことになっちゃうかわかんないよ! 自分で何が言いたいのかもわかんないよ!
 いくら気持ちよくたって自分を見失うのは怖い。だったら痛みの中でカイナッツォを感じるほうが、ずっといい。なのに、呂律がまわらない。必死で首を振るわたしを見る、このニヤついた顔。絶対、絶対、わかってるくせに! 性格悪いっ!
「……んじゃ、続きといくか」
「あああ! 待っ、ま、てえぇっ!」
 さっきよりも強く、指が胸に食い込む。爪が刺さる痛みさえ快感を呼んで、どこにも逃げられない。硬い尾が割れ目をなぞって、先端で突起を捏ねまわした。内壁をえぐるように激流が渦を巻く。
「や、あ、ああっ、おねがっ、い、いぃっ」
「なんだ?」
「あぁ、くぅぅ! いれ、て、あっ、ああッ、い、入れてぇぇ!」
「……聞こえねえなあ」
「あ、あ、だめ、も、あぁっ、ねが、おねが、いっ」
「仕方ねえな……ま、いいだろ」
 全速力で逃げていく意識をつかまえて、快感に耐えるのに必死だった。あんなにぐだぐだ考えてたくせに、どうしていま少しも待ってくれないかな。悪態をつく余裕なんかなかったから、ただずっと、あとで覚えてろ、あとで、絶対、絶対……!

「っ、はぁっ……けほっ」
 体がひっくり返されて、急速に空気が送り込まれた。腕に力が入らなくて地面に頬をつける。冷たい土と草が火照った肌に気持ちよかった。カイナッツォの手がわたしの腰を掴んで引き上げる。羞恥も不安も霞がかった意識に埋もれて、あてがわれた硬い感触にだけ体が反応した。
「力抜いてろ」
「う、んんっ!!」
 無意識に頷いた瞬間、ゆっくりと体に入ってくるものがあった。水に慣れたそこに、もう冷たさは感じなかった。慎重に分け入ってくる肉が、内側からわたしの肉を刺激する。痛いのかどうか分からない。それよりも、内臓が圧迫されて苦しかった。掴んだ草がぶちぶち音をたててちぎれる。
「サヤ……痛いか?」
「へい、き……っ」
「無理すんな。……どうせやめるわけにもいかねえんだから、痛けりゃそう言え」
 気遣ってるのか勝手なのか、よく分からない優しさが可笑しい。ふっと体から力が抜けて、タイミングを見計らったように一気に貫かれる。衝撃が走って、何が何だかわからなくなった一瞬に、少しだけ満たされた気がした。
 しっかりと収まったままカイナッツォは動かない。もう、このまま目茶苦茶に引き裂かれてもいい……と思ってしまったわたしは、やっぱり変態かもしれない。

「……あああ、くそっ」
「だいじょ、ぶ? ……気持ち、よくないの?」
「良すぎて動けねえから困ってんだよ」
 その言い草に言葉と裏腹の余裕が感じられて、言い様のない敗北感に襲われる。
「お、い、待っ……ちょっ、サヤ……待て、って!」
 浅く腰を引くと、中が引き攣れてぴりぴりと痛んだ。直ぐさま体を掴まれて動けなくなると、今度は下腹に力をこめる。繋がり合った入口から一番奥まで、同化したみたいに密着してる。抑えようとする力が緩んだ隙に、ゆっくりと腰を動かしはじめる。
「んっ、あ、あ、はっ、あぁッ」
「ぐっ、うぅ……やめ、泣かすぞてめえ……」
「泣かせ、あっ、んぅ……泣かせて、いい、よ……」
「……くっ」
 ずしっと体重をかけられて、揺さぶられた衝撃にまた快感が湧いてくる。地についた頬。目の前にカイナッツォの腕が降りてきた。背中越しに硬いお腹の感触。
 静かに収まってたものがぎりぎりまで引き抜かれて、体が裏返りそうな感覚に身震いした。先端だけが浅く抜き差しされて、いきなり最奥まで突かれ、無遠慮な抽挿が繰り返される。
「こんなに、淫乱だとは、思いもしなかったぜ……」
「だっ、あっ、あ、だって、好き、あ、あぁっ、好き、だからぁ!」
「……オレが、か? こういうことが好きなだけじゃねえのかぁ?」
「ちがっ、あぅ! カイナッツォじゃなきゃ、や、だめ! 好きっ……ぜんぶ、大好きぃ!」
「分かっ……た、もう言うな。……勘弁してくれ……」
 やっぱり、迷惑なのかな……。仕方ないから相手してくれるだけなんだ。わたしが求めるから、応えてくれるだけなんだ。いまさらになって涙が出た。満ちて、溢れて、流れて……止まらないまま気を失うほどの快感に押し流されて、意識を手放した。
 自覚したくなかっただけかもしれない。いくら深く繋がっても、求められてるわけじゃ、ないんだって……。同じものを返してもらえるなんて思わない。でも……。

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