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カイナッツォ


 目の前の黒い髪を指で梳く。いくらなぞっても同じ色にはならないな。人間に化けてみたところで、オレはオレだ。……近づくために人に化けてるわけじゃねえ。それでも、触れるほど遠ざかる気がする。それを腹立たしく思ってるのは事実だ。
「……うぅん」
 腕の中でサヤがくすぐったそうに身をよじった。無防備な背中を撫でて服をめくりあげてみる。夜目に白い肌が、呼吸にあわせて動いていた。どうせもう、遅い。出会っちまった時点で逃げられなくなってたんだ。
 胸をはだけさせてもサヤは動かない。……頼むから抵抗ぐらいしろよ。戯れじゃすまなくなるぞ。丸められた足を撫でさすってみる。なんでこんなに体温高いんだよ。理性が溶けそうだ。好きじゃねえのに。……好きじゃないが、……。

「ん……」
 乾いた涙の跡を舌でたどる。潮の味がした。力無くもたれかかっていた体を起こさせて柔らかい胸に顔を埋め、噛みつくように肌を吸う。体臭の感じにくいやつだったが、ここまで密着するとさすがに……。
 この肉食ったら美味いんだろうな……、くそっ、早速後悔が押し寄せてきた。これからずっと我慢し通しか、オレは。
「なにするの?」
「見りゃ分かるだろ」
 言いながら胸を揉みしだく。夜の寒さのせいかオレの体温で冷えたのか、鳥肌がたっている。ついでに硬くなってる乳首を弾いてやると、サヤの体がのけ反った。
「こ、ここで? 今から? その姿で??」
「嫌なら全部やめるが」
 やめる気なんかないけどな。全部という言葉が効いたのか、サヤは力無く首を振った。惚れた弱味ってやつだ、諦めろ。つーかもう無理だ。たしか食ってもいいって、言われたしな?

「……ちなみに聞くが、お前処女か?」
「ばっ……どうしてこういう状況で聞くかな!」
 なら何か、真っ昼間に人前で聞けってのか。
「経験済みなら元の姿でも、なんとか……いや、無理か?」
「……じゃあ、処女じゃない」
「……あっそう。このままやるか」
「うー、うそつきー!」
 そりゃお前の方だろう。いちいち指摘してやるのも面倒だ。さっさと済ませるべく肩を掴んで押し倒す。やわやわと胸を揉みながら硬くしこった先端を口に含むとサヤの首元が赤く染まった。
 柔らかい乳房が指に吸いつくように形を変える。この感触は人間ならでは、だな……まさかこいつの味を知ることになるとは思わなかったが。

「んっ、ぅ……はぁっ……」
 乱れはじめた呼吸が恥ずかしくなったのか、顔を両手で覆う。性欲でもいいとか言っときながら、一応羞恥心はあるらしい。その方がオレにとってもありがたいが。
 むしろもっと煽ってもらわなけりゃ、食欲に傾きそうで怖い。内心に焦りを感じてサヤの下肢に手を伸ばす。浅い快感に震える腹を舐めて抵抗を弱めながら、下着をずり下ろした。
「やっ……待って、まだ、」
「ちゃんと濡らしてやるから安心しろ」
「そ、じゃなくって……んんっ!」
 逃げようとする腰を掴んで湿りはじめた割れ目に舌を這わせる。悠長なことしてられねえ。こっちはお前と別の意味で余裕がねえんだよ。
「あぁ、ぅ……んっ、はぁ……や、あっ!」
 サヤの手が押し返すように頭に触れる。構わず唾液をすり込みながら舌を差し込んだ。上壁を舐めあげるたびに、粘り気のある液を垂れ流しながら、サヤの腰がびくびくと動いた。舌を左右に揺らしながら起ちあがった突起を指の腹で撫でる。
 ……人間になってなけりゃ、爪や牙で傷つけるな……。どうにも余計なことばかり考えちまう。

「気が乗らねえなぁ……」
 顔を離してつぶやきながら、かわりに濡れそぼったそこに中指を入れる。ゆるゆると上下に動かしながら、半分その気になりかけた自分をついつい宥めすかす。サヤに覆いかぶさって、半泣きの顔をじっと眺めた。オレの指にいちいち反応して漏れる息が、丁度首の辺りにかかる。
 なんつーか、これがギリギリ最後なんじゃねえのか? まだ言い訳のしようもある。今なら、まだ……。
「はぁッ、んぅ…………、……ッあ、うぅ、」
「あ?」
 嬌声と吐息の間に何か聞こえた気がして、手を止めずに聞き返す。固く閉じられていたサヤの目が開いて、オレを睨みつける。それに気をとられて油断してたら蹴りが飛んできた。慌てて勢いよく指を引き抜くと、快感に負けてサヤの足が止まった。
「な、なんつーことするんだ。状況考えろよ」
 痛い目に合うのはお前だぞ。そう続けかけた言葉が、サヤの涙に遮られた。憎しみさえ感じる視線が、真っ直ぐオレに向かってくる。
「……なんだよ」
 サヤは何も言わない。ただ黙って涙を流しながら、オレを睨んでいる。胸の奥が掻き乱されるように痛い。
 何だってんだ。オレが悪いのか? 痛すぎてこれ以上問い詰められねえ。死んだときの方がまだ楽だった。こいつと関わってると、楽じゃねえことばっかりだ。

***


 まるで洗脳が解けたようにあっさりと、サヤが起き上がる。乱れた服を手際よく整えながら、もうオレを見もしない。夢を見たことはないが、悪夢から覚めたらこんな気分なのか。それとも、これから始まるところなのか?
「……ひっ、ぅ……っく」
 嗚咽を漏らしながら手早く服を着たサヤが、そのまま立ち上がり駆け去ろうとした。さすがに訳が分からなくなって、慌てて腕を掴む。振り払おうと暴れる腕を抱え込んで抑えつけた。
「説明ぐらいしろよ、おい」
 どうやら本気でキレているらしいサヤは、オレの体の下でそっぽを向いて口をつぐんでいる。視線が合わない。……何を考えてんだか、分からねえ。

「……逃げるほど嫌なら、最初から言えばいいだろうが」
「嫌なのも逃げたいのも、カイナッツォの方じゃない!」
 腹の底から振り絞るような声が、頭の奥で震えた。なんだよ、今更。仕方ないだろうが。オレは最初から、言ってんじゃねえか。好きにはなれない。そんな感情は抱けないと。だから、
「だからお前に、選ばせてやっただろ……」
「わたしに選べるわけない……! 好きなんだよ。傍にいてほしいんだよ! 始めから、選択肢なんか……ッ、わたしに何も感じないなら、ちゃんと拒絶すればいい! 中途半端に受け入れないで!!」
 さっきはそれでもいいって言ったじゃねえか。拒絶しろ、だと? こいつは馬鹿だ。分かってたが、本当に馬鹿だ。救いようがないな。全部説明してやらなきゃ、分からねえのか。……馬鹿野郎。
「拒絶なんか、できるんなら、オレはここにいねえんだよ……」
 こっちを見ようとしないサヤの顎を掴んで、無理矢理オレの方に向ける。固く閉じた瞼。せっかく乾いた頬がまた涙で濡れている、それを見た瞬間下半身に血が集まってくるのを感じた。くそっ、変態か、オレは!
 噛み締めた唇をそっと舐める。驚いて開かれた隙に舌を捩込んだ。サヤの手が押し退けようと胸を叩く。
「んー! んんっ、ぅ、」
 呼吸が尽きるまで口の中を蹂躙してから解放してやると、ぜえぜえと息を荒げながらサヤがオレを睨んだ。

「……誰のために戻ってきたと思ってんだ」
「それとこれとは……!」
「違わねえ。ここまできて逃げやがって……今更収まりつかねえんだよ」
 あるべき場所におさまったサヤの下着を、ずらすのさえもどかしく力任せに引きちぎった。さっきとは打って変わって硬くなった男根を、未だ濡れたままのそこに押し当てる。サヤの腰が怯えたように引いた。
「やだっ……さっきと言ってることが違うよ!」
「うるせえ。どっかにつかまってろよ。大声出したら誰かに見つかるぜ」
 押し返そうと突っ張っていた手が戸惑うように胸から離れて、怖ず怖ずとオレの背中にまわされる。好きだのなんだのが関係あるか。今更、手放せねえ……それは、オレもお前も同じだろ。
「わたしのこと好きじゃないくせにぃ……っ」
「泣き顔とエロい顔は好きだぜ? あと体な」
「気が乗らないって、言った!」
「だからそりゃ……」
 食欲とごちゃごちゃになりそうで怖かった。触れ続けて理性が飛んじまったら、サヤの肉を食いちぎりそうで、そしたらもう永遠に……。
「……お前が泣いてんのを見たら、その気になった」
「っ! ばか……変態!」
「どうもすみません、ねっ!」
「あぐっ……! うぅ、」
 気の抜けた隙に限界にきてたモノを押し込んだ。熱い内壁が絡むように包み込んでくる。半ばまで入ったところですんなりとは進めなくなる。無理矢理いっていいものか……。

 サヤは痛みに耐えようと自分の服を噛み締めている。背中にまわされた手が必死でオレにしがみついていた。
「……我慢できるわけねえだろ」
「んんっ! んー、んー!!」
「すまん、次は、ゆっくり、してやるから……ッ」
 勢いを緩めず最奥に到達すると、ギリギリまで引き抜き、また一気に貫く。サヤの体が揺さぶられて震える。突き上げるたびに溢れ出す愛液に少し安堵しながら、そこに混じる赤い血にやはり胸が痛んだ。
 気持ち良くなってる余裕はないな、こりゃ。初めてだってことに、こだわってなきゃいいがなぁ……そうもいかねえよな。苦い罪悪感も、快楽を求める動きを止めるには至らない。
「んぅ、っふ、うぅ、ん〜〜っ!」
 せめて痛みを和らげてやろうと体を離し乳房に触れる。が、離すたびにサヤが必死でしがみつくせいでうまくいかない。仕方なく体ごと押しつけるように重なって、赤く染まった耳を舐めた。
 抽挿の動きに合わせて触れ合った胸がむにむにと歪む。こいつの体はどこもかしこも柔らかくて頼りないな。食ったらさぞかし……ああくそ、考えるな。
「う、ぁ……ッ、サヤ……っ……」
「んんぅ……!」

 突き動かされるままサヤの中に吐き出してしまうと、下半身から冷静さが戻ってきた。やっちまった。とうとう。……だが、思ったより後悔してねえな。想像以上によかったからか?
「っ、……はぁっ……」
「……大丈夫、じゃねえよな。抜くか?」
「……」
 声も出せずにゆるゆると首を振る。鋭い痛みと快感が抜けきれない体。ほうけきったような表情に、眉が情けなく垂れ下がっていた。不意に妙な感覚が沸き上がってくる。……もう少しこうしとくか。別に悪かねえよな。
 繋がったままサヤに体重を預ける。弱い力で、まだしがみついてくる。どうにもたまらなくなって、抱き返して目を閉じた。

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