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『ローザのことを想うと、愛しくて、切なくて、胸がいっぱいになった……彼女に恋をして、とても幸せだったから、セオドアにも早くそんな気持ちを知ってほしいな』
 サヤが誰かと恋に落ちたら、と……考えたことはある。この世界に馴染み、この世界に存在し続けるためならそれもいいだろう。無論、相手によっては反対するが……。彼女がここに留まり、それを見守り続けられるならば満足だった。
『セオドアとサヤが、一緒になってくれればいいのに』
 いつか、ぽつりとセシルが零した言葉。セオドアなら申し分ない。サヤ自身も好意を持っているし、なにより彼がサヤを不幸にするなどありえない。二人の気持ち次第ではあるが、一緒になってくれれば私にとっても嬉しいことだ。だからそれとなく聞いてみようと、それだけの、はずだった……。

「ありえない」
「……即答なのか。セオドアを嫌っているわけではないだろう?」
「大好きだよ! だけどなんていうかそれは……セシルとローザにもっかい結婚しろってくらい、無理」
 よく分からない例えだな……。恋愛を通り越しているとでも言いたいのか。思えばこんなことは苦手な分野だ。下手に口を出すべきではなかったのかもしれない。しかし……。
「他に誰か気になる男はいないのか?」
「え〜……パロムなんかは、一体どうすんの、って気になってるけど」
「……そういう意味じゃない」
 あれは駄目だ。あれはいけない。一番嫌な相手だ。エブラーナのあの男も駄目だ。ダムシアンのあれも駄目だ。他に想い人のいる者など論外だ。
 そもそも私には、候補に挙げられるほど知り合いがいないな……。魔物ならいるのだが。この世界で、人の中で生きた時間で言うなら、サヤと同じほどには異端だろう。
「……カインはどうだ」
「ぶっ」
 何も笑うことはないと思うが。相変わらず立場の弱い奴だな……。
「カインは、お兄さん、かなぁ……ちょっとうるさいとこなんか特に」
 それは二人のやりとりを見ていると理解できなくもない。ならばセオドアはさしずめ弟か。

「では、……」
 次に浮かんだ可能性に絶句した。気付いてはならないものと、目を合わせてしまった。
「どうしてそんなに結婚させたがるの? やっぱり、わたしがここにいる理由のため?」
「あ、ああ……確かなものがあった方が、安心できる、からな……」
 不思議そうに見つめる視線に動揺する。馬鹿なことを考えるな。……そんなことは、ありえない。あってはならない。
「でもなぁ〜……それならゴルベーザこそ、もっと考えたほうがいいと思うよ」
 ああ、駄目だ。今このタイミングで私に振らないでくれ。
「せっかく自由になったんだから、恋くらいしなきゃ。もういい年なんだから」
「……お前に恋をしても構わないのか?」
 冗談めかして私の肩を叩いていたサヤの、時間が止まった。しばし茫然として、きっと一言のもとに却下されると思っていたのに、彼女は……頬を染めた。
「そ、れは……困る……だって、セシルがセオドアのお父さん……ゴルベーザはたぶん、うちのお父さんより、年上……」
 何か頭の上に勢いよく重石を落とされた気分だ。オッサンだの父親のようだのと散々言われはしたが……。それでも頬を紅潮させたままのサヤに、妙な期待を抱いてしまう。お前は間違えていると教えなければ。一笑に付すべきだったんだ。……いや、もう遅いのか。

「サヤを想うと、愛しくて、切なくて、胸がいっぱいになる……」
「うわっ、ちょ」
「お前を失ってからずっと、会いたくてたまらなかった。もう一度出会ってからは……手放すのが恐ろしい」
「まっ待って、一旦落ち着かせて」
「……これは恋か、サヤ」
「わたしに聞かないでよー!」
「……分からないんだ。お前を求める気持ちばかり強くて、それがどんな愛情なのか」
 耳まで赤く染めてサヤが困ったように俯いた。こんなことを言われても戸惑うばかりだろう。だが私自身にさえ、どうしたらいいか分からない。かつての想いが偽りだったのか確かめる術もなく、今も心の奥底でその名を呼び続けている。親愛か、執着か、それとも恋か。分からなくとも、応えてくれたら私は幸せに満たされるだろう。……幸せになりたいと望んだのは初めてだった。

「……お前と幸せになりたい。結婚してくれ」
「い、いきなり飛びすぎじゃないかな」
「何が足りない?」
「えっ……だから、まず、一緒に過ごす時間をたくさん作って、お互いのことを知っ……うぅ?」
 それは今までに済んでいるように思う。過ごした時間は偽りでも、変わらぬ感情が残っている。サヤもきっと、同じことを考えているのだろう。
「結婚、かぁ……なんか、だからって、べつに何も変わんない気も……」
 すでに一緒に暮らしていたし、今はもっと近いし、今までにだって大切だったのだから。……だが。
「明確な区切りがつけば、私は嬉しいんだがな……」
「……じゃ、する……」
「…………サヤ」
 自分から申し込んでおいて承諾された時のことを考えていなかった。というか、されると思わなかった。本当にいいのか。問い詰めていいのか。我に返らせない方がいいのか。
 ……結婚といっても、具体的にどうすればいいのだろうか……。あとでセシルに相談してみなければ、いやその前に四天王に報告を、いや、サヤは本当に後悔しないのか?

「……でも、ほら、式とかは……報告とか、もっとあとで……き、気持ちが落ち着いてから、で」
「そ、そうだな。一度冷静になってから、何をどうすべきなのか考えなければ……」
「…………」
「…………」
 顔を合わせ、互いの頬の赤さに照れて、また逸らした。この妙に恥ずかしい気分は一体何なんだ?

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