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実験台-風


 わたしから呼んだ。わたしから相談を持ち掛けた。わたしからバルバリシア様を選んだ。独占欲を満たす三拍子が揃って上機嫌な顔を見てると、なんかいいことしたような気分になる。ホントは全然そんなことないんだけどね。むしろ、どっちかというと悪いことなんだよね。
 わたしの部屋で向かい合わせにベッドに座り顔を寄せて、その必要もないのになんとなく声を潜めて話す。秘密会議みたいな雰囲気がちょっと楽しい。ルゲイエから預かった香炉を渡して事情を話すと、案の定バルバリシア様は『じゃあ試してみましょ』ってすぐに乗ってきた。本人が乗り気だと、わたしも罪悪感に悩まされないから嬉しい。

「……どうかな?」
「特になにも変わりはないわね」
「あれ〜……」
 部屋の中をふわふわとお香の匂いが漂ってる。マスクをつけたわたしにはよく分からないけど……。見守るわたしの目の前で、バルバリシア様が眉をしかめた。よくよく考えたら、具体的にどういう変化が起きるのか聞いてないや……。抜けてるなぁ、わたしもルゲイエも。
「サヤ、何かしてほしいことはないの? なんでもしてあげるわよ」
「うーん、でもそれって……いつもと変わらない、よね」
「……そうよねぇ」
 二人して頭をひねる。洗脳して意のままに操る、なんて言ったって、バルバリシア様は普段から大概のお願いは聞いてくれるし。今ここで多少無茶な頼み事をして、仮に聞き入れてもらえたとしても、それがお香の効果なのかなんなのかは分かんないよね。
「強いて言うならいつもより……」
「いつもより?」
「理性が、」
「は、はい?」
 言葉を切ってじっとわたしを見つめる。ゆっくりと手が伸びてきて、バルバリシア様のしなやかな指が頬を撫でた。マスクをするりと外されて、甘い香りが頭の中に入り込んでくる。意識が遠のきそうになって思わず後退った体に、長い金の髪が巻きついて引き留められた。
「サヤ……襲ってもいい?」
「うん」
 えっ、うんって!? 無意識に頷いた自分に驚いて、すぐにべつにいいか、なんて思い直す。おかしいな、なんか思考回路が変だよ。これってあの薬のせいなの?
「サヤ、大好きよ」
 呟かれた言葉に嬉しくなって、バルバリシア様に抱き着く。あったかくて柔らかい……。ホントだ、理性が吹き飛ぶね。でもどうせ全部ルゲイエの責任なんだから、べつにどうなったっていいや。
「わたしも大好き」
 そっと耳元で囁くとバルバリシア様の頬がピンク色に染まる。いつもと違う幼い表情がなんだかすごく可愛くて、嬉しいような気恥ずかしいような不思議な気持ちが溢れた。

「ずるいわ!」
「うぇ?」
「いつもそんなこと言ってくれないくせに……」
 わたしの腕の中で口を尖らせてスネるその表情。なんだか今すごく男の人の気持ちが分かる気がするよ。この人を大事にしたい。愛しさで胸がいっぱいになる。
「他のやつらには好き好き言うくせに、あたしには言わないんだもの……!」
「え、ええっ?」
「あたしだってサヤとイチャイチャしたいわよ!」
 べつに他のみんなとだってイチャイチャはしてないと思うんだけど……。バルバリシア様、もしかして暴走寸前? でもその嫉妬心がちょっと嬉しかったりして。
「じゃあ今からイチャイチャする?」
「……後悔するわよ」
 べつに後悔くらいしてもいいよ、そう返事する前に『よし!』をもらった犬みたいに嬉しそうなバルバリシア様に押し倒された。いそいそと服が脱がされていくのを何とも言えない気分で見守る。
 どうしよう……かわいすぎて抵抗する気が起きない。なにをする気なのかしっかり分かってるし、それが嫌なわけじゃないんだけど、本能まるだしな自分にちょっと不安になる。頭はしっかり働いてるのに、理性だけがどこかに消えてる。
「サヤの体は美味しそうねぇ」
「んっ……あ、相手が相手だけに別の意味で怖いよ、そのセリフ……」
「本当に食べたりしないわよ。『別の意味で』食べちゃうけどね」

 すべらかな指がつーっと乳房を辿る。くすぐったさに身をよじると、手足に冷たいものが絡みついてきた。恐々と目をやれば、細くきれいな髪がさらさらとわたしの肌を撫でる。胸までのぼってくると乳房を包み込むように巻きついた。
「あ……でも、どうしたらいいのかな……その、女同士で……」
「……サヤは男の肉の方が欲しかった?」
「そ、そんなすごい言い方しないでよ」
 そりゃあそれが自然な形なんだろうけど、いま目の前にいるのはバルバリシア様で、男のバルバリシア様なんて想像できないし、わたしだって別に男になりたいとは思わない。ましてや他の誰かの方が、なんて。……そんなことが問題なんじゃなくて、ただなんていうかな、物理的にどうしたらいいのかな、って。
「あたしはサヤに触れたい。サヤもあたしに触れたい。なら余計なこと考えなくていいの」
 そう言うとバルバリシア様はわたしの胸に口を寄せた。湿った音を立てて吸いつかれる。その音と柔らかい唇の感触が恥ずかしくて、ため息が漏れた。
 体中に絡みついた髪が、光をはねながら蠢く。全身に与えられる微弱な刺激に震えた。見ればわたしの体が金色に光ってるみたいで、バルバリシア様の中に包み込まれたような気分になる。
「あぁっ……バルバリシア様ぁ……」
「サヤったら、だめよそんな声……あたしを殺す気なの?」
「だ、だって……気持ちよくて……」
 自分の声が想像以上に甘ったるく響いて顔が熱くなる。触れてくる髪の冷たさ、指先のやわらかさ、部屋中に漂う香り……翻弄される。体の上で揺れる胸に目が吸い寄せられた。

「……わたしも、触っていい?」
「いいに決まってるじゃない」
 いつもよりもっと近いところにある顔が、全開の笑みを浮かべる。頭の奥の方がくらくらした。伸ばした指先が震えながら乳房に触れる。そっと手の平で包むと、はじけそうな力で押し返してきた。むにむにとした感触に魅了されて、うっかり言葉を忘れる。
「……」
「サヤ……もっと、触って……」
 わたしの胸を撫でさすりながら、バルバリシア様の腰がくねくねと動く。体の芯のほうがカーッと熱くなるのが自分で分かった。衝動に身を任せて手の中のものを揉みしだきながら、どこか遠くに隠れてしまった理性がこのありえない状況を冷静に見つめてる。なんか、変態になっちゃった気分だよ……。
 自分から触れることばかりに気をとられていたら、バルバリシア様の指が一番敏感なところに伸びてくる。油断してたせいで思わず甲高い声をあげた。
「ああっ! わ、ちょっと待っ、んん!」
「サヤのここ、濡れてるわよ。あたしに触れて興奮した?」
 そんな恥ずかしいことを、嬉しそうに聞かないでください……。突然の刺激に手が止まった。その隙をつくように指は襞を掻き分け奥へと進み、入り口をやわやわと指先で撫でるとするりと中へ入り込んできた。熱く溶けだした内側を、曲げ伸ばしを繰り返しながら細い指が意識ごと掻き回す。
「はぁっ……あっ、や、……あぅ、んっ」
「可愛いわ、サヤ……もっとあたしの手で感じなさい……」
 快感に押し流されそうになる意識を引き留めたのは、理性なんかじゃなかった。揺れる胸に今度はわたしが口づける。先端に触れた舌先から、あのお香の匂いにも似た欲望を誘う味が伝わる。両手を肌触りのいい体の上ですべらせ、太股を撫でるとバルバリシア様の口から吐息が漏れた。呼吸が絡み合う。

「んんっ……はぅ、ああっ!」
「サヤ、っ……あっ、んぅ……」
 わたしの中を掻き乱す指につられるように、バルバリシア様の足の付け根を目指す。指先を差し込んだそこは、わたしの中に負けず劣らず熱く濡れていた。
「ああっ、サヤ……いいわ、もっとぉ……」
「んっ、はぁっ……あ、ぁんっ」
 煽り合って指の動きが加速していく。まるで戦ってるみたい。喘ぎ声を吸い出すようにどちらからともなくキスをした。絡み合う体が、舌が、熱い……。どっちがわたしでバルバリシア様なのか、分かんなくなりそう。
「んむ……んっ、ふぁ……」
「はぁっ、んん……ぅん」
 金の髪が流れて視界を覆う。目の前の顔が輝いて見えた。視線が重なって、キラキラ光る目が、もっと欲しいと言葉もなく訴える。応えるように見つめ返して、指を蠢かせると熱い内壁が吸いついてくる。
「はぁっ、ハッ、あぅ、んっ! あっ、ああっ!」
 きっと同じものを見て同じものを感じてる。それが堪らなく嬉しかった。わたしを求めるためだけに存在してる体と、声……。理屈なんかじゃ消し去れない、もっと強くて深い欲求で、必要とされてる。
「あっ、も、だめ……はぁっ、あぅ、っあぁん!」
 もうどっちの快感なのかもわからない。そんなことどうでもよくなるほど、目の前の存在のことだけで頭がいっぱいになった。押し寄せる刺激に耐え兼ねて、二人同時に果てる。わたしの上に崩れ落ちたバルバリシア様が、荒い息を整えながら妖艶な笑みを浮かべた。

「サヤ……女同士もいいものね? ……すぐに次ができるもの」
「ひあぁ! ああっ、ちょ、待って、あぅっ! まだ……あっ、あ、」
「いやよ。待ってあげなーい」
「やっ、可愛く、言っ、たっ! て、……あ、あ、あっ、だめ、やだぁ!」
 張り詰めた突起をぐりぐりと押されて言葉がうまく紡げない。体が刺激に敏感になりすぎて、触れられるたびに魚みたいに跳ねる。恥ずかしがる余裕もないのは、かえってありがたいかも、なんてまとまらない頭で考えてたら。悪戯っぽいバルバリシア様の囁きが思考を引き戻した。
「ルゲイエにはなんて報告するのかしら。面白そうだからあたしもついて行くわよ」
 あああ、いきなり現実が戻ってきた! 報告なんて、報告なんて……何て言えばいいかわかんないよ! バルバリシア様と一緒に行ったらなおさら、どんなことまで伝えられるかわかんない。絶対、阻止しなきゃ!
 ……でも今は、考える余裕ないから……とりあえずもう一回、現実とさよならしよう。

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