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実験台-土


 探しものは見つけにくいものでした。探すのをやめてみても見つからないのはよくある話で……。そもそも四天王は眠らないから自室にいることが滅多にないし、スカルミリョーネやルビカンテはどこかに出かけてることが多くて、そう簡単には会えない。
 ダンジョン層の入り口で待ち構えて通り掛かりのブラックナイトに聞いてみたら、塔の中にいるのは間違いないみたいなんだけど。塔中さがしまわって疲れちゃった。もう歩きたくない。
 もう諦めちゃおうかな……なんて沈み込みながら、スカルミリョーネの部屋でごろごろと床を転がる。他の誰の部屋よりなんにもないなぁ。もう部屋っていうより……箱? 壁際に無造作に積み上げられてる本をぺらぺらとめくる。知能の高いモンスターは文字を使う。人間の文字とは違うらしいけど、どっちにしろ読めないわたしには区別なんかつかない。

「あ〜もう部屋帰って寝ちゃおうかなぁ!」
 退屈を嘆く叫び声とドアが開く音が重なって、部屋の外が見える寸前で勢いよく閉められる。慌てて飛び起きてドアを開けた。案の定逃げようとしていたスカルミリョーネの背中に飛びつく。
「こらー、逃げるな〜」
「……なぜここにいるんだ」
 わたしをぶら下げたまま、うんざりしたようにつぶやいた。悪いかなとは思うけど……一番言うこと聞かせてみたいのはスカルミリョーネなんだよね。
「まあまあ、狭いところですがどうぞ遠慮なく」
「お前の部屋のように言うな! さっさと降りろ!」
 するりと背中から降りてスカルミリョーネを押し込むように部屋に入る。さて、ここからが問題だよね。騙してもすぐ見破られそうだし、素直に頼んでも聞いてくれるわけないし。強行突破するしかないかなぁ。
「何をしている」
「ぶっ!」
 さっと取り出したお香に火をつけ……ようとしたところで、スカルミリョーネの手が顔面を叩いた。止め方が優しくない……。
「ちょ、ちょっとお香でも焚こうかなぁ〜、って思っただけだよ」
「それはルゲイエに頼まれたものだろう」
「ええっ!」
「私を実験台にするとはいい度胸だな……」
 地を這うような声に心臓が凍る。なんでバレてるのかな。っていうかわたしいま絶体絶命のピンチ?
「あ、あはは……さようなら!」
「待て」
 逃げ出そうとした襟首を掴まれて体がのけ反った。ああ、もうだめだ。お父さんお母さんごめんなさい、わたしの人生はここでゲームオーバーみたいです。

「……協力してやろうか」
「えっ、絞殺してやろうか!?」
「どういう耳をしてるんだお前は……」
 飛び出た言葉が予想外すぎて勝手に脳内変換が……。きょ、協力? スカルミリョーネがわたしに? きょうりょくってどういう意味だっけ。じわじわ追い詰めて殺してやるとかいう意味だっけ。
「私で試したいんだろう?」
「そ、ま、そそうなんだけどっ……い、い、いいの?」
「……少し落ち着け」
 慎重に耳を傾けてみてもスカルミリョーネの声に怒気は感じなかった。少しだけ安心して深呼吸をする。なんか変だな、わたしに都合の良すぎる展開だよ。妙に怖くなる。
「貸してみろ」
 両手で握りしめていた香炉が奪い取られる。茫然と見つめるわたしの前で、スカルミリョーネがお香に火をつけて、わたしの顔の前に突き出した。

「ってちょ、待っ……!?」
 慌てて鼻と口を覆った手を引きはがされて、後ろから羽交い締めにされる。すぐ近くから漂ってくる甘い香りが頭の中を掻き乱した。強すぎる刺激に呂律が怪しくなる。
「す、スカルミリョーネぇ……」
「どうせ人間に使うものだ……お前で試した方が合理的だろう……?」
 そう言われればそうなのかもしれない。すとんと納得させられて、からっぽになったような頭を振って頷くと、背後でスカルミリョーネが満足そうに笑った。それだけでもう、何もかもどうでもよくなった。
「サヤ」
「はぅ……」
 優しすぎる囁きに力が入らない。冷たい手が太股の内側を撫でた。体の底のほうから溢れてくる喜びに、震えが止まらない。
「……怖いのか?」
「ちがう、嬉しいんだよ」
「そうか……」
 不安そうに尋ねる声に、慌てて言い返す。嫌なんじゃない。スカルミリョーネのほうからわたしに触れてる、その事実がたまらなく嬉しいだけ。ため息のように漏れた安堵感がわたしの頬を染める。
「ならば遠慮はせんぞ」
「あっ! あ、んんっ……」
 体を抱きしめていた腕が離れて、快感への期待がつまった胸を揉まれる。太股を這う指先が下着越しに秘裂を撫でた。気恥ずかしさと嬉しさが混じり合って弾ける。振り返って抱き着きたい衝動が、抑えられない。
「んっ、ふぁ……はぁ、んぅ……」
 服を隔てた穏やかな愛撫。もどかしさに身悶えると、宥めるように頭を撫でられた。こんな状況でもなきゃ優しくしてもらえないんだって思うと悲しくて、それと同じだけ、こんな状況でなら優しくしてくれるぐらいには求められてることを実感する。
 ……なんだか、何かが我慢できなくなって、スカルミリョーネの腕を振り切る。振り返ってその体に抱き着いた。

「サヤ」
「ごめん……っ、……うぅ」
「泣くほど嫌なら、そう言えばいい」
 言葉が出てこなくて、ただ首をふる。少しでも気を抜いたらすぐ離れてしまいそうな体に、必死でしがみついた。スカルミリョーネはわたしを引きはがそうとはしない。気遣うように背中を撫でる手。
 優しくされたい。好きになってほしいって、ずっと願ってて、いまそれが叶ってるのに……なんでこんなに泣けてくるんだろう。
「もう、優しくしなくて、いい……ちゃんと言うこと聞けって、命令してよ」
「……それでは……意味が……」
 小さな呟きは口の中に消えて、わたしには届かない。聞き慣れた欝陶しそうなため息が頭にかかると、しがみつく手が乱暴に引きはがされる。よりどころを失った手に丸薬が握らされた。どうしていいかわからなくて、涙を流しながらスカルミリョーネの顔を見上げる。
「……本当に腹の立つやつだな、お前は」
「……」
 何に怒ってるのかわからなくて、謝ることもできない。俯いた拍子に肌を離れた涙が、万能薬を握りしめた指に当たって弾けた。
「サヤ……お前が選べ。このまま部屋を出て行くか、それを飲んで……」
 自分の意思で抱かれるか。突き放すような口調に、今日はなぜか安心した。迷いもなく手の中の薬を飲み込む。頭の中から甘い残滓が消え失せる。消えずに残った欲望が体の奥で燃えあがった。
「優しくされて不満なんて、わたしマゾなのかな」
「それは無理矢理犯されたいという意思表示か?」
「わっ、違う違う! ……やっぱり優しくしてね」
「……知るか」
 仏頂面で顔を背けて、そのくせわたしを引き寄せて抱きしめる。冷ややかな胸に顔を寄せると死人特有の饐えたような匂いが、部屋中の甘い香りを掻き消すように強く。涙が止まった。

「スカルミリョーネ……あのお香で、わたしを抱きたかった……?」
「……過程がどうだろうと結果は同じだ」
 どうしてそういう言い方しかできないかな。素直にうんって言ってくればいいのに。でも、今日は……いいや。
 腰にまわされてた腕がするすると降りてきて、膝を開かせて下着をずらす。わたしの足が屈み込んだスカルミリョーネの肩にかけられて、肩車のような格好にされる。問題なのはわたしたちが向き合ってるということ。無理な体勢のせいで後ろに倒れそうになる。持ち直そうとすると腰を押しつけることになって……逃げられないそこに、ぬるぬるとしたものが入り込んできた。
「あぁっ、あぅん! や、ちょっと待っ、ああっ、はっ、ぁん!」
「これ以上待てるか」
「ひぁっ、んっ、あぁ! や、あっ、あ、あ、だめぇ、あぁッ」
 突然の刺激になすすべもなく喘がされる。奥まで侵しては抜けていく。中でうねる動きに翻弄されて、起ちあがった突起にかかる息まで快感を呼ぶ。意思を奪われて、自分を取り戻して、今度は自分から乱れてる。意識の変化についていけない。

「……サヤ、」
「あぁあっ、そ、なとこ、っ……呼ばなッ、あぅっ、あんっ」
「お前がほしい」
 結局、一番ほしい言葉をもらえたら……他に考えることなんか何もないんだ。やわらかい舌が離れて、かわりに硬いものが押し込まれる。引き裂かれそうな痛みに声も出せなくて、スカルミリョーネの背中に手をまわす。あと少し届かなくて、右手と左手の指がつながらない。ふらふら揺れる体を抱き潰されそうなほど強く支えられた。
「……痛いか?」
「あぅっ、う、ん……でも、やめな……ああっ、やめちゃ、やっ、んんぅ!」
「誰がやめてやると言った」
 奥まで満たしていたものが引き抜かれるたびに、内臓ごと引きずり出されるような感覚。力強すぎて苦痛なのか快感なのかわからない。わたしが求められてる証。突き上げられると爪先立ちになった足が浮く。見つめ合う視線の強さに射抜かれる。
「……少しは思い知れ」
「あっ、くぅ、あ、あぅ! んぅ、はぁっ、ああっ!」
 静かな囁きと、正反対の勢いで打ち込まれる衝撃。言われなくたって嫌というほど思い知ってる。どれだけ求められてるのか。でも足りないよ。もっと、もっと感じたい。痛みも快感もまるごと、スカルミリョーネのすべてがほしい。
「いっ、ああっ! も、あぁう、だめぇ、んっ!」
「支えていてやるから安心しろ……」
「あっ、あ、はぁっ、あぁああっ!!」

 頭の中でチカチカと光が瞬いた。ぐったり力が抜けた体。わたしの中で質量を保ち続けるものが、倒れることを許さない。繋がったまま二人して床に座り込んで、スカルミリョーネの上に跨がる。大きく息をついて体重を預けたら、また優しく髪を撫でられた。
 いまさら恥ずかしくなって、スカルミリョーネの肩に顔を埋める。このまま二人で燃え尽きたい。
「少し休むか……?」
「大丈夫だよ!」
「……」
 思わず顔をあげて即答したわたしに、耐え切れなくなったように笑って、すぐに顔を背ける。
「……今日は、甘やかしてやる。感謝しろ」
「う、ん……」
 甘えだしたら際限ないの、知ってるくせに。遠慮なんかしてあげないんだから。もうお香のことなんて忘れてたのに、ふわりと甘い匂いを感じた。催眠薬なんかじゃ上書きできない。とっくに魅了されてる……もうこんなに染み込んでるから、これ以上なにも差し出せないよ。

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