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 冷たい荒野に肢体が踊る。無数の手がサヤに愛撫を与えていたが、それを知るのは彼女の体のみだった。衣服も乱さず誰にも触れられないままで、一人快感に喘いでいる。自身の姿がいかに映っているのかを痛いほどに自覚しながら。
 理性を手放すことは許さない。ゼムスの目に映る痴態をまざまざと脳裏に浮かべながら、感覚だけを犯されてよがる。

 何度目かの絶頂にサヤの意識は真っ白に染まった。気を失う前に深層に入り込み、視界を黒で塗り潰してゆく。硬い鉄の感触を肌に這わせれば思い描くのはあの男の姿。より強固に詳細に記憶を再現してやる。
 全身に感じていた手の動きが消え、一人の男が与えるものへと変わる。幻であるとは思えない現実的な感触。慣れ親しんだ冷たい鉄が、熱を吸い取るように肌を撫でた。
 サヤの目の前にはゴルベーザがいた。幻だと分かっていながらも確かな存在感が思考を狂わせていく。縋りついた先に男の体はない。与えられる快感だけが真実のようにサヤを掻き乱す。
 存在しないはずの手が、必死に閉じようとする股を割り開き、溢れ出した愛液に透ける下着を指でなぞった。腰に手をまわして抱き寄せ、下着の隙間から指を入り込ませる。熱く熟れた肉を押し開いて内壁に擦りつけられるたびにサヤの体が跳ねた。

 嬌声を紡ぐ唇がゴルベーザの名を呼ぶことはない。快楽に果てる瞬間にさえ乱れぬ理性が、縋ることを拒絶する。これはゴルベーザではないと叫ぶ。反して体は熱を持ち、肉を求めて揺れ動いた。
 体温の移らない幻の指が、緩慢な動作でサヤを追い詰める。脳裏に優しい声が響いた。かつて築き上げた、かりそめの日常が蘇る。サヤは泣きそうに眉を歪めて目を閉じた。
 視界から男の姿が消え、体をまさぐる感触が人肌に変わる。親愛と欲望が凶器と成り果てサヤを貫いた。痛みに反らした胸元を舌が這う。宥めるように優しく舐め、突き上げる動きは烈しさを増す。耳元に囁かれる、名を呼ぶ声だけが、幻と記憶を繋いでいた。

 決して自ら触れることなく蹂躙し、許しを請うように見上げるサヤを無表情に見返しながら、ゼムスのもとに届いた怒りがあった。
 連鎖的に生まれ、増殖し続ける憎しみ。流れ込む強大な感情を嘲笑う。あの男に見せてやろうか。自らの幻がサヤを犯している様を送り返して、さらなる絶望と憎悪を植え付けてやろうか。
 それとも、いっそこの体で交わるか。まるで自身がそうしているかのようにあの男の意識を支配して。ついぞ触れ合うことのなかった体を最も憎い男が抱いている。その様を余す所なく見せてやるのも悪くはない。
 ほくそ笑むゼムスを見つめていたサヤが、快楽に紛れて微かに怒りを発した。強制的に保たれた理性がゼムスの歪みを感じとる。

――もうこれ以上つらいことなんて

 視線だけを返し、笑う。ならば救い出してやればよかった。すべてを教え鎧を剥ぎ取り、あの男の深淵に手を差し伸べてやればよかった。
 そうしなかったのはサヤだ。代わりに失うものを惜しんで何一つ選び取ることができなかったのはサヤだ。そして最後に帰ってきたのはゼムスの元だった。
 ここから始まり、ここで終わる。じきにこの世界から消える。
 目の前で消してやろうかとも思っていたのだが、しかし彼らの絆は想像以上に深くなり、また当人達はそれに気づいていなかった。何も築くことがなかったのだと互いに疑っている。確かなものを求めながら、その弱さ故に深く繋がり合えなかった。

 幻に帰してしまおう。苦悩の果てにたどり着いたこの場所に、サヤはもういない。お前の手の中には相も変わらず何も無いのだと、教えてやろう。
 そしてサヤ。お前も決して、あの男を手に入れることはない。
 本当に愚かな奴らだ。

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