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鷹-4


 黙り込んだルビカンテから与えられる愛撫はどこか作業じみていて、サヤは半ば自棄になって身を任せた。自分には彼の内心など計り知れないと、もう痛いほど知ってしまった。
 全身を這い回る手に昨夜の屈辱が蘇り、吐き気を催す嫌悪感が沸き起こる。次第にその源がルビカンテにあるのではなく、快楽に流される己にだけ向けられていると気づきかけ、慌てて目を逸らした。考えなければいい。勝手にすればいい。わたしは何も関知しない、と。
 一方でルビカンテは、サヤとは逆に互いの内心を考え続けていた。
 嫌ってはいない。今は、虚ろになった彼女に、元のサヤに戻ってほしいと考えている。嫌われてもいいし軽蔑されてもいいから、元気を出してほしいと。
 しかしすぐに違うと思い直した。嫌われたくない。また笑ってほしい。もう一度抱きたい。今度は求められたい。ただ癒してやりたいならそれこそ最初から放っておけばよかった。触れ続けるのは手に入れたいからだ。
 嫌いな相手に好かれたいなどとは思わない。少なくとも、自分ならば。ではルビカンテに嫌われていたと知り心を閉ざしたサヤは、一体何に傷ついたのか。
 抱かれたことに傷つきルビカンテを嫌悪したのだと思った。恐怖し、拒絶し、今度は彼女が侮蔑する番なのだと思った。だが蓋を開けてみればサヤはまるで、ルビカンテに嫌われていたことが最重要だとでも言うように……。

 負の感情に振り回され心身ともに疲れきったサヤは、それでも触れてくる熱に過敏に反応した。下腹部で指が蠢くたび、泣き縋り掠れた声を漏らした。
「……サヤ」
「や……あっ、ハァッ……んぅ!」
「サヤ」
 腰を抱き寄せ耳元で名前を呼ぶ。何度も、何度も、逃げたがるサヤを許さず、呼び続ける。
「サヤ、私を見ろ」
「いっ……呼ばない、……あ、あ……ッ」
「誰に抱かれているのか、よく見るんだ」
 昨夜の余韻に震える肉壁を擦り上げ、花弁の間で疼く突起を親指の腹で捏ね回す。内と外で挟みながら揺らし、強い刺激に悶えるサヤの体をなお強く掻き抱く。反り返る胸元にうっすらと残された跡へ、もう一度慈しむように口付けた。
 抱きたかった。理由などどうでもよくなるほど強大な欲が沸き起こる。それでいてサヤの好意を失うのも嫌だった。もう一度やり直したい。もう一度、今度はちゃんと繋がりたい。
「あっ、ふ、ぅあ……や、あぁッん……」
「……サヤ」
 響く声に切なさが増し、掻き回す膣がひくひくと震え、絶頂に辿り着く寸前に、ルビカンテは指を引き抜いた。湿った音を立て名残惜しげに糸を引きながら離れた指が、そのままサヤの腰に回される。
 閉ざされた快楽に戸惑う体を引き寄せ、彼を求める膣口に屹立したものを押し当てる。恐れたサヤが腰を浮かせようとするが、押さえる両手に負けて引き戻された。

「や、……やだ……」
 脱力感に紛れて忘れていた痛みの記憶が蘇り、思わずルビカンテの顔を窺った。そして時が止まる。戸惑いが一層深まった。
 サヤの腰を固定し、自身を彼女の秘所にあてがったまま、ルビカンテは動かない。そのくせそれ以上に体を浮かせて逃げることは許さない。
 熱く熟れた肉を掻き分け、どちらかが進めば繋がる、その直前に留まっている。考えまいとしてみても理解してしまった。
「くっ……うぅっ、離してよ!」
 目前にある肩を掴み、精一杯の力で体を持ち上げるが一向に動かない。ただ僅かに触れた部分が擦れ合って音を立て、サヤの頬を羞恥に染めただけだった。
 そんな理性があるなら最初から襲うなと毒づき、その瞬間サヤは自らの内心と見つめ合ってしまった。
『でもわたしに選ばせたいんだ。わたしに求められたいんだ。わたしの……心が欲しいんだ』
 動かせない腕に捕らえられている限り、どうせ逃げ出すことはできない。是と答える道しか、始めから用意されていない。それでもルビカンテはサヤが自らその道を歩くのを待っている。
──いや、でも、都合良すぎない? わたし強姦されたんですけど……。だけど、……なのに、嫌われてるんじゃないって、喜んでる。建前かもしれないのに、わたしの意思を認めてもらえるのが、たまらなく嬉しい。あんなに怖かったのに、嫌だったのに、だけど相手がルビカンテじゃなかったら、たぶん二度と立ち直れなかった。

「……あ、あの」
 意図は分かった。意思もなんとなく、理解した。しかしサヤには羞恥の壁を越えられなかった。つい数時間前に初めてその場所に男を迎え入れ、今もう一度、今度は自らの意思で挿入しろというのはあまりにも、難題だった。
 相変わらず言葉を発しないルビカンテは、彼女の雰囲気が多少和らいだのを感じ取り、微笑んで両手にほんの少し力をこめた。サヤはそれを受けて抵抗する力を抜き、導かれるままに腰を落とした。
「んっ……はぁっ、ア、……あ、やっ……」
 感じる間もなく貫かれた前回とは違い、それはサヤには恥ずかしすぎた。ゆっくりと膣壁を押し広げ侵入してくるルビカンテの形を、エラの張った先端から脈打つ陰茎まで、自らの一番敏感な部分で感じ取る。
 痛みのないようにと気遣い慎重になるほどに、動きも熱もはっきり伝わってくる。快感よりも恥ずかしさで息を乱し、サヤはルビカンテの首に抱き着いた。
「サヤ……、そこにしがみつかれると」
 腰を掴んでいた両手を離し、片腕でサヤの体を抱え込むともう片方の手で彼女の肩を押さえた。背を丸めて自分より小さな体を包むように抱きしめる。
「……奥まで入れられないだろう? あまり焦らすと何をするか分からないぞ」
「んっひぁ、ああぁッ!」
 緩慢な動きに慣れたところをいきなり突き上げられ、サヤが悲鳴をあげた。根元まで飲み込んだかと思えば体を持ち上げられ、支える腕が離れてまた腰が落ち、動作に合わせて突き上げられる。

 唐突に性急さを増した責めに喘ぎながら、サヤはまた屈辱感に苛まれた。
「あっ、あ、もっと、アァッ! もっ、ゆっくり、おねがっあぁんッ」
「怖がるな。恥ずかしがる必要はない」
「やっ、あ……はぁっ、うぅ」
 未だ恐怖心の残るサヤを見て取り、抽挿を止めてその背を撫でる。頑なに閉ざさせたのはほかならぬルビカンテだ。ならば解きほぐしてやらなければならない。
「そうなるようにしているのだから、気持ちいいのは当たり前だ。君は何も悪くない」
 というか気持ち良くないと言われると悲しいし落ち込む。
「だっ……だって……だってぇ……」
「君が感じるのは私を好きだからだよ」
 ぽかんと口を開けたサヤは、『それはちょっと暗示っぽくてずるいし自意識過剰でうざい』などと思いはしたものの。平然と言い切り、自分勝手に理由をこね回して彼女を抱くルビカンテの言い分を、奥の方ですんなり納得してしまった自分を発見した。
「でも……こんなの……わたしばっかり……」
「……何を言ってるんだ。私がどれほど我慢しているのか、君が一番分かっているはずだがな」
 言いながら軽く中を擦り上げると、突然頭を抱えて唸りだしたサヤを見て苦笑する。実際彼女の体は心地よく、今こうして理性を働かせるのもかなりの大仕事だった。
──どちらか選べというなら、何度でも抱きたい。しかしサヤの内面を知りつつある今、また軽蔑せよというのも無理な話だ。彼女が私を求め、好意を寄せてくれればそれが最上だ。好きになるまで追い詰める。許せるまで触れ続ける。恐怖が消えるまで離さない。この執着心を、全身で理解してくれ。

「……分かるまで、分からせてやろう」
「あっん、んっ……やっ……やだ、てばぁ……」
「安心してくれ。この部屋には誰も入れないようにした」
 あんたがいるのが一番いやなんだ!という掻き消された声と、それを見て見ぬふりする視線とを、お互いしっかり理解しながら。
「あっあぁ、もっ、やぁっんッ、出てってぇ!」
「そう言いつつ離さないのはどこの誰かな?」
「るっさ……あっ、ふ、ぁあ!」
 心のどこかでは受け入れておきながらなおも抗うサヤを見て、ルビカンテは酷薄な笑みを浮かべる。
 簡単すぎてもつまらない。どうせ手に入れるなら徹底的に打ち負かし、彼女が抱く意外なほど大きな自尊心よりも、他の何よりも彼の存在を求めるまで……堕ちるまで、決して離しはない。

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