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錯乱


 サヤを連れ出すのはカイナッツォとスカルミリョーネの役目。いつ頃からかそのように決まっていた。バルバリシアはサヤが誰かの目に触れることを好まない。彼女もそれを理解し、バルバリシアに外出をせがむことはなくなった。
 ……だが、まだ甘い。自分の知らぬところに、自分ではない誰かと共にいる。それを知ったときのバルバリシアはとても厄介だ。サヤもそこまで深くは理解していない。宥め役になるのはいつも私だった。そしてそれこそが、私が彼女と出かけられない理由だったのだが。
「無理にでも時間を作っておくべきだったか……」
 今いくつもの偶然が重なり、私がこうしてサヤを連れ出している。何をそう頻繁に出かけたがるのかと不思議に思っていたが、実際彼女は外へ出ても何をするでもなく、ただぶらぶらと歩き回ってはぼんやりと風景を眺めるばかりだ。外へ出るという行動そのものが重要なのかもしれない。
「……そのままじっとしていてくれればよかったんだが」
 これなら危険なことは起きそうにない。……つまり私は、油断していた。少し目を離した隙に視界から消え去ってしまった。この辺りに強力な魔物は生息していないが、サヤのことだから安心できない。ずっと見ていなければならなかったのに。彼女がいつもどこを歩くのか、何をするのか、私は何も知らない。この広い視界の中、探し出す手掛かりが一つもない。

「見当たらないか……」
 眷属の魔物を放ち地から空から探らせても、舞い戻った彼らからは何の手掛かりも得られない。何かあったのか。責任よりも重く心にのしかかるものがある。数分前の自分に本気で苛立ち始めたとき、背後からぬっと白い影か現れた。
「ルビカンテ、みーっけ」
「サヤ!」
 背中越しに暢気な声が聞こえた。腰にまわされた腕にも傷一つなく、心底安堵する。そっと腕を解き捜し求めた人影を振り返り、
「……!?」
 絶句した。サヤの頬は上気し、おおらかな表情とは打って変わって潤んだ瞳が悩ましげに私を見上げている。いつもと変わらぬはずの姿から立ちのぼる、淫猥な気配。

「ルビカンテ……」
 私の名を愛おしげにつぶやき、一度離れた体が再び絡みついてくる。サヤの白い腕が軟体動物のようにうねるのを、呆然と見ていた。
「ど、どうしたんだ、一体」
 欲情など感じてはならない。こんなことは、あってはならない。必死に言い聞かせながら密着した体を引きはがそうと肩を掴んだ。
「んぅっ……はぁ……」
 途端に甘い吐息が漏らされ思わず手を離す。何なんだこれは。何が起きているんだ? 目の前にいるのはサヤだ。間違いなくサヤのはずだ。なのになぜ、こんな淫らな空気が漂っているんだ!?
「ルビカンテ……もっと……さわって……」
 そんな目で私を見るな。そんな、声で、呼ばないでくれ。何が起きたのか分からない。だが、絶対に何かあったのだ。こんな彼女は有り得ない。おそらく少し混乱しているんだろう。私がしっかりしなければ。
「はぁっ……ぁん……おねがい……ルビカンテの、熱いの……ちょうだい……?」
 サヤが私の手を取り、彼女の下腹部へと導く。微弱な力になぜか抗えない。スカートをたくしあげ下着の中に指を滑りこませる。ぬるりとした感触に肌が粟立つ。
「あっ! あぁん、そこっ……もっと……」
 裂け目に沿って指先で撫でると、サヤの体がぴくりとはね、私にしがみつく。……駄目だ。これ以上は。何らかの理由で少し錯乱しているだけなんだ。だから、だから……それとも、おかしくなったのは私の方なのか?

「うぅんっ! ふぁ……あっ、ルビカンテの、指……気持ちいいっ……わたしも……したい」
「ま、待ってくれ、そこは……!」
「すごい、固くなってる……」
 サヤの指が熱に浮かされた私に絡まる。そっと手で包み込み、煽るようにゆっくりと撫でる。根元から指で辿り、先端から溢れ出る液体を掬いとると自身の口へ運んだ。見せ付けるように舌を出し丹念に舐める。白い指先の向こうで炎のような赤い舌がうごめいている。
「もう勘弁してくれ……頼む、から」
 理性まで燃え尽きそうなんだ。だが私の懇願も虚しく、妖艶に微笑んだサヤは服を脱ぎ捨て下着をずらし、あらわになった胸を押し付けるように擦り寄る。爪先立ちになり私の首に手を回すと、その重みに引き寄せられて顔が近づいた。少し動けば触れそうなほどに。
「……もっと奥で、感じたいの」
 まっすぐな視線が思考よりも確かに認識させる。夢幻ではない、目の前の女は確かにサヤなのだと。

「ううぅ……」
 獣のような唸りをあげる。体が自分の支配下から外れていく感覚。サヤの下肢を覆うように掴み抱き上げ、濡れそぼつ茂みの奥へ、起ち上がった半身を強引に差し込んだ。
「ッああああ!!」
 サヤの背が大きくのけ反り、首にまわされた手に力がこもる。尻を掴んで支えながら、理性を捨てたサヤを責めるように何度も突き上げた。勢いで腰が浮き上がり、自重で再び沈み込む。繰り返される抽挿のたびに熱を帯びた悲鳴が漏れる。
「あぁんっ! はぁっ、あっ、くぅ! 待っ、もっと、ゆっくり……あぅ!」
「今更、そんな言い分が……通ると、っでも?」
「あぐぅ! ひぁ、あぁっ、んんぅ! はぁっ、あああッ」
 中から肉をえぐるように突く速度を上げれば、サヤは呼吸もままならなくなる。
「っ、……責任は、取ってもらうぞ……!」
「はぁっ、アアッ! ルビ、カンテぇ……ひぁん! くぅ、あああッ、つ、ぃ……あっ、変に、なっちゃ、ああぁんっ!」
 どうせ始めから狂っているなら、理性と共に思考も捨ててしまえ。欲情の炎で身を焼きながら、今はただ私の腕の中でよがっていればいい。そして一緒に後悔しようか。熱の饗宴はまだ終わらない。すべて灰に還るまで、終わらせてやるものか。
 ……頭が冷え我に返った時、あまり怒らず許してくれるといいんだが。

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