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再会


 目とか髪とか立ち居振る舞いとか。声とか剣の使い方、いろんな仕種を見ていて改めて似てると思う……けど、セシルと比べるのはやっぱり失礼なんだよね。他の誰でもそうだけど、とくにセオドアはセシルへの想いが強すぎるみたいだ。
 大きすぎる父親の光が彼に影を落としてるんだって、それくらいはわたしにもわかる。でも、まあ、なんていうか。わたしが戦い方を知らない以上、敵から逃げきれないときにはセオドアに頼るしかないわけで。そうなるとどうしても、拙い動きを見てると、少しだけ一緒に旅した人達のことを思い出してしまう。
 若いこと、幼いことを理由に非難されても困るよね。でも事実として無能なわたしと半人前のセオドアでは、生きてバロンに着けるかどうかも怪しかった。……だからどれだけ不審な人でもあの男の人が合流してくれたのはありがたいことなんだろうなあ。……なんか、謎めいた人だけど。不審者具合じゃわたしも負けてないもんね。

 前は、これから先の展開がわかってた。セシルが主人公で仲間がいて敵がいて、ゴルベーザがいてゼムスがいて、最後にどうなるかまでわたしは全部知ってた。でも今回のことは何もわからない。わたしが誰に呼ばれたのかもわからない。これが前と同じ、作られた物語の中の出来事なのかさえ。
 ただ言えるのは、続きには違いない……ってことだよね。セシルからセオドアへ、確かに繋がってる。それはたぶんわたしにとっても大きな意味がある。

 どういう理屈なんだかさっぱりわかんないけど、あのターバン男が一緒に行動するようになってから、スカルミリョーネの姿がくっきり見えるようになった。夢か現実かも区別のつかない闇の中じゃなくて、こうして三人で歩いてる昼日中わたしの傍らにスカルミリョーネがいる。
 それはもちろん嬉しいことだけど。
「……どうしてかなぁ」
 前を歩く二人には聞こえないようこっそり、スカルミリョーネに寄り添って小声で話しかけた。いつも通りの仏頂面で「知らん」って吐き捨てて、終わりかと思ったら珍しく続きがあった。わたし達の目の前でひらひら揺れるターバンを睨みながら低く唸って。
「あの男、今まで試練の山にいたようだな」
「え……」
 それって、スカルミリョーネの死んだ場所だよね。グパァーのところだよね。あそこって修行場でもあるんだったかな? なんだかミシディアの人が管理してるようなイメージだったけど、そんな場所であの人は何をしてたんだろう。
「あの山は死者の留まりやすい場所だ。……そのせい、だろうか」
 山に遺ってたスカルミリョーネの思念……というか恨みつらみ? それがあの人にくっついて出てきて、わたしが見てた闇と同化した。……ってことかなぁ。わたしは嬉しいけど、あの人にはいい迷惑だ。
 自分の心配とか物語の行く末、セオドアの心、先々の不安とか。いろんなことを置き去りにしても、隣にスカルミリョーネがいるってことがやっぱり嬉しくて口の端っこが上がってくる。我ながら単純だなあとは思うけどね。

 かつての主人公の息子に謎めいた剣士。ますますもって物語めいてきて、やっぱりわたしが知らないだけでもう何かの流れに巻き込まれてるみたいだって、思えた。
 ここが筋書のある世界なら、辿り着くエンディングが決まってるなら……そこにはスカルミリョーネもわたしも最初から居ないはずだ。
「もしかして、頑張れば何とかなるのかな」
 不審そうに見下ろす瞳を、複雑な気分で見返した。始めっから失うものがないならどんな無茶でもできるじゃない。前は知ってたから怖かったこと、今ならできるかな……? 変えるのが怖くて踏み込めなかったこと、目の前にいるひとを手に入れるためなら。
 それはセオドアがこれから背負うだろう決意や覚悟に乗っかって、利用することになるかもしれないけど。絶対的に大事なものを、最初から一つに決めてみたら、わたしもこの世界の一部になって、自分の意志を貫き通せたら。
 とりあえず今は仮定だけ並べる。どうなるかはわからない。どうにかしたいって思うだけだ。

 今夜のキャンプの準備を終えて、わたしは早々にテントへ閉じこもった。セオドア達に余計な心配かけてることはわかってる。ちょっとだけ罪悪感もあるけど、あの二人にはスカルミリョーネが見えないらしいから仕方ない。誰もいない空間に話しかけるやばい人だなんて思われたくないもんね。
 狭い中に押し込まれるようなでっかい体を見て、ふと思った。外に居たから意識してなかったけどやっぱり臭いがしないんだ。こうして起きてるときに目の前にいて話もできるのに、こんなに現実感があるのに、スカルミリョーネには実体がない。
「この間まで、全部わたしの夢かなって思ってたんだから、ちょっとした進歩だよね」
 現実の中にあるセオドアと、幻かもしれないスカルミリョーネが並んで目に映る。これじゃもう、まるっきり夢だとは思えない。そりゃあ今も触れないしわたし以外に見えないし、生き返ったんだね! なんて言っちゃうほど楽観的にはなれないけど。
 目の前の存在は、まだまだ遠すぎる。でもただの死人とも違う。
 闇から光のもとへ。スカルミリョーネがわたしをあそこへ連れてったみたいに、わたしが引っ張りこむことだってできるんじゃないかな。まずは目に見えるようになった。次は手を繋げるようになりたい。その次は――。
 儚い願いかもしれない。馬鹿げたな希望を抱いてるっていかにも言いそう。でも信じたくなる未来があるのは、前を見て歩くために大切なことだ。

「悩んでいるようだな」
「まーね。わたしにとって重要なことだし」
 自分のことだって、わかってるのかな〜。まあいいけど。
「……休まなくていいのか」
「ちょっと寝れる状況じゃない」
 もったいないのもあるけど、寝て起きてスカルミリョーネが消えてたらって考えちゃう。でもわたしには現実生活っていう大事な役目があるから、寝転がって体だけでも休めよう。
 スカルミリョーネがそっと手を伸ばしかけて、届く寸前で舌打ちしてやめた。すぐそこにいて、触りたいのに叶わない。同じ気持ちを抱いてるってことが悲しいなんて。
「なんか、変な感じだよね」
 テントの中って閉じた空間ではあるけれど、すぐそばにセオドアがいるからスカルミリョーネにだけ聞き取れるくらいの小声になる。
「何がだ」
 つられたのかスカルミリョーネの声も随分ひそめられてて思わず噴き出した。だってわたしと違って姿も見えないし声だって聞こえないんだから、普通にしゃべればいいのに。
 わたしが笑いを堪えてるのに気づいて、改めて普段のトーンで「何のことだ」って言い直す、妙な真面目さにまた笑った。
「ずっともう一回会いたいって思ってたんだよ。でも無理だって諦めてた。わたしは元の世界に戻っちゃったし」
 スカルミリョーネは、死んじゃってたからね。
 でも、またこっちに来ることがあったらなーって思ってた。モンスターだし。アンデッドなんだし。同じ世界に居さえすれば会えるかもしれない。少なくとも希望だけは持っていられるって思ってた。
「……会うだけなら会えたし、半分叶ってるような余計切ないような」
 姿を見て声を聞いて、どんどん欲が出てくる。そのおかげで諦めずにいられた。
「わたし、スカルミリョーネが戻って来るなら何でもするよ」
 そっちが望んでなくても知ったこっちゃないんだから。いつか絶対、再会を喜び合えるって、その瞬間を目指して突き進むことに決めたからね。

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