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ゴルロザ

 その指先に触れた瞬間、電流が駆け抜けた。陳腐な恋の表現などではなく、文字通りにビリビリと痛みを感じたのだ。
 同じくそれを体験したであろうローザは、恋情どころか目一杯の憎しみを籠めて私を睨みつけている。どうやらダメージはあちらの方が桁違いに大きかったらしい。
「……私のせいではないぞ」
「あなたのせいよ。わたしは『そういう体質』ではないもの」
「それは私も同じことだ」
 じっと互いの手を見つめ合い、そこに残る熱と痺れに異様な緊張感が辺りを包む。やがてローザが手を伸ばし、私の頬に触れた刹那──耳元で不快な音が弾けた。
「……痛い」
「だから私のせいではないと言うのに」

「わたしの体が邪悪なあなたに触れることを拒絶しているのね」
「大仰な。ただの放電現象だ」
 とはいえ、触れるたびにバチバチと火花が飛ぶようでは欝陶しくてかなわないな。私は普段から甲冑を身につけていてるのにあまり煩わされることもない。ならばやはりローザが原因ではないだろうか? 元は帯電体質でなくともストレスからそうなることもある。
 表面上はそれなりにのんびりと暮らしているが、敵地に監禁されているのは事実なのだ。知らぬ間に精神に負荷がかかり健康面に悪影響を及ぼしているのかもしれぬ。
「お前の生活についてじっくり考えてみるべきだな」
「……今すぐにでも解放してくれたらそれで済むと思うんだけれど」
「クリスタルを得られるまでそうする気はない」
 尤も、クリスタルを得てもどうするかは分からぬが。……全て無くした人間の世界に、一人生き残らされた女の顔を眺めてみるのも悪くない。

「ゴルベーザ」
 何を考えているの、と私の袖を引くローザの指先で、また火花が散った。
「……」
「自滅しておいて私を睨むな」
 素肌ではなかった故に、自分だけ痛みを感じたのが腹立たしいのだろう。……何故かな。やはり私も少しは悪いのか?
「仕方がない。シャワーを浴びて来る」
「ど、どうしてそうなるの!?」
 お前こそ何を勘違いして赤面しておる。そういった展開を期待しているなら応えてやっても良いが。
「水で洗い流せば多少は放電されるだろう。何なら一緒にどうだ?」
「ごめんなさい。わたしまだホーリーは使えないのよ」
 余裕のない表情で怒っているのもまた新鮮でよいものだな。常に奴の心配ばかりしているのでは私もつまらない。
「……残念だ。今夜こそはと思ったのだがな」
「くだらないことを言わないで!」
 いっそ私への怒りと憎しみで、セシルのことなど忘れてしまえばよいのだ。

「無くしたくないのなら、意地でも守ってみせろ」
「……分かった。静電気を起こせばいいのね」
「その程度で守られるのか」
 安い貞操だな。いっそ今すぐ貰ってしまおうか? 堕ちた女を見てあの男はどんな顔をするだろう。いや、愉しみは後に残しておくべきだ。
「あなたにはその程度で充分だわ」
「……さほど本気で手に入れたいとも思わぬ」
 今は、それだけだ。もしも欲しいと思ったならば小娘の些細な抵抗など、痛みなど、妨げにもならぬだろう。野望を果たしたその暁に、私は必ずローザを手に入れる。

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