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ゴルルカ

「セシルなら庇うのに」
 非難がましい視線と言葉が背中に突き刺さった。他愛のない戦闘を終えた直後のことだ。
「何の話だ」
 問い返せば、ドワーフの娘は答えとも思えぬ言葉をただ繰り返した。
「セシルなら、皆の前に立って、悪意を防いでくれるのに」
 どうやら、先の戦いで私が敵の攻撃を自身に引き付けていたことについての批判のようだ。
「庇うも注意を引くも……同じことだろう」
「あなたはただ自分が傷つきたいだけみたい」
 あまりにも真っ直ぐに貫かれたそれは、恐ろしいほどにまばゆい。
 ただ傷つきたいだけか。その通りなのだろう。罪から逃れるため、己の意思から逃げるために、血を流し、苦しいと叫びたいがために。
 だがそれの何が悪いのだ。私が苦しむことに喜びこそすれ、誰も躊躇などするべきではない。
「……見てる方が痛いんだから、やめてよ」
「お前には関係のないことだ。不快ならば見えぬふりをすれば良い」
 私の返答にむっつりと押し黙り、娘は先を歩き始めた。しばし無言で進む内に、彼女は先程の会話に後悔し始めたらしい。気まずそうにこちらを向いたその肩の向こうに、跳躍する影が。

「あのさ、さっきのことだけど」
 無防備な背中目掛けて殺到する魔物との間に立ち、少女を抱きかかえ脇へと逃がす。抜きざまの一閃で魔物は事切れた。
「大事ないか」
「あ……」
 たった今、事態に気付いたかのような顔だった。不注意だと叱るべきだろうか。しかしもう微笑ましく感じてしまった。
「私は大丈夫。でも、貴方は?」
 いくら怪我を負ったところで何も変わらぬ。これは償いではないのだから。
「……さっきの話だけど、関係なくなんかないよ。あなたは仲間なんだから!」
 地底の闇の中、光といえば岩をも熔かす熱き炎しか知らぬ娘が。何故にこうもまばゆいのだろうか。私が心惹かれるわけにはいかぬと言うのに。
「庇ってくれてありがとう。でもそういうことじゃないのよ」
「……では、」
 どうすればよいのか。……私はどこまで愚かなのだ。彼女に答えを求めるな。
「傷つきたいなんて思わないでよ。償いたいって少しでも思うなら、自分の意思で幸せになって」

『私は大丈夫。でも、貴方は?』
 ……大丈夫だったことなど一度もない。痛みがなければ生きられもしないのだ、私は。それでも、不幸に浸るなと言うのか。光の下を歩けと?
「ほら、行こう」
 ルカは屈託もなく、今度は私の手を取って前へ進み出した。

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