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ロザ→ゴル

 囚われた身から屈辱感は拭えない。様々に絡み合った感情は、その源すら、もう定かではなかった。
 憎んでいると言えば嘘になる。嘆くだけの日々も過ぎた。悲しみは枯れ果てて、怒りは最初からなかった。戸惑いと恥辱、そして妙な親近感、それを認める自分への不信も。
「何故、私を助けた?」
「……あなたを信じていないから」
 いつかきっと、またセシルを置いて行くから。それが一時でも永遠でも、必ずあなたはセシルを捨てるから。
「分からんな。信じられないなら見捨てるのではないか」
 とても無防備な、心底不思議そうな顔。かつてゴルベーザを覆っていた殻はなく、今はただ罪の意識だけで動いている。背後に落ちた影のような煩わしい男はもう何処にもいない。わたしの闇が具現化したのかとさえ思えたもの。今のゴルベーザは、ただただ遠い。
「共に戦って、背中を預けられるのは、」
 怒り嘆いて想いをぶつけられるのは。……憎しみに身を焼いて、その行く末に悲しむことができるのは。
「信用してるからこそ、でしょ?」

 わたしはあなたを信じない。わたしはあなたを許すわ。あなたを、受け入れる。いつかセシルを置き去りにするあなたを。いつかセシルを置き去りにしたあなたを。これは憎しみよりも残酷な復讐。
「ローザ」
 わたしの名を呼ぶ声。そこに秘められた優しさが、かつての姿と重ならせない。
「お前は強く美しい。昔よりも尚」
 あなたは以前とは比べ物にならないほど弱いわ。守るためにしか生きられない、わたしの大事なセシルにそっくり。償うためにしか生きられない。
「お前がセシルの傍にいて良かった」
 立ち去る理由をわたしに押し付けないで。罪悪感など湧きはしない。
「誰もいなくなってもわたしがセシルを守るわ。でも」
 決して失ってはならないのは、わたしではなくあなたなのよ。わたしを捉えたのは黒い甲冑。今はもう何処にも存在しない、深く静かな闇。得体の知れない感情に、恐れを抱かず飲み込まれたいと願うほど……もう、若くはなれない。

「わたしは、あなたに生きていてほしい」
 それは真実。本当の真実。突き詰めて、削ぎ落として、磨き抜かれて残った最後の輝き。あなたの中にまだ闇が残るなら、もしかしてもう一度。だけどきっと有り得ない。
「だから、あなたのことも守るわ」
 生き延びる意志があるなんて信じられないから。
 破壊の化身たる闇は消えた。本当は疑わしいものなど何もない。何も、残されてはいないのよ。

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