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ゴルセオ

 膝の上に乗る軽い体、そこに宿る切なげな瞳。やり場のない手をセオドアの肩に乗せて、しかし押し返すこともできずに。
「好きです」
 真っ直ぐな視線は貫くほどの強さではなく、包み込むような柔らかな光が目を焼いた。
「セオドア、私達は血も繋がっているし、男同士だし、」
 必死に紡ぐ言い訳は酷く滑稽だった。そんな言葉は無意味だと、誰よりも自分自身が一番よく分かっている。
「好きです」
 他の言葉を忘れたように泣き出しそうな声で繰り返す。後から後から溢れる告白は、尾を引いていつまでも耳に残った。消える間もなく次が現れ、好きですという響きが積み重なって行く。

「お前も知っているように、私は容易には拭い去れぬ罪を抱えている」
 お前の想いには応えられない、お前を汚したくない。本当に、くだらない言い訳だ。誠実さのかけらもない。本能では彼を押し退けるつもりもないのに。こんなにも純粋な想いをぶつけられて尚、まだ何を計っているのか。
「好きです」
 ゆっくりと、焦れるようにはにかむように、同じ色の髪が近づいてきた。逆光で淡く輝いている。月明かりのようだった。
「好きです……」
「セオ、」
 塞がれた唇から出かけたのは否定の言葉だったのか、自分でも分からなかった。一度じっと見つめ合い、セオドアが目を閉じる。そっとその髪を撫でながら、何を考えればいいのかも分からなくなって行く。

「……僕の恋人になってください」
「……はい」
 奇しくも顔を覆って項垂れる動きがまったく同時だった。その頬の赤さが、内心が、まるで双子のごとく似通っていたのを、目を閉じていた二人は知らない。
(うわあ、どうしよう……)
 照れと罪悪感と、早くも胸を占める後悔と。しかし何か温かな気持ちもまた沸き起こっている。
「手にするのが、怖かったのに……また失ってしまうから」
 かつて全てを失った。そのうえ自分でもそれを望んでいたのだ。再び見えた光は既に他者のための輝きを放っている。もう何もかもが苦痛だった。
「きっとまた、すぐに終わる……」
「終わりなんて無い。きっと、ずっと」
 生きる限り、誰かと共にある限り、失うことは避けられない。
「でも一人でなんて生きられない!」
 この腕の中にある温かさ、胸に沸き起こった熱を失ったら。今度こそ闇から這い上がれないだろうから。
「あなたの傍にいます。僕が終わるときまで」
「……そうしてくれ」
 向けられる純粋さのために、まだ残る愛を捧げよう。

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