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ルビティナ

 この世界では己の為だけに戦えない。呼び出されれば抗えず、意思とは無関係に戦わねばならないのだ。一時の主が年端もいかぬ少女であれば、疎ましいとは思わないがやはり戸惑う。
「こんにちは」
「あ、ああ」
 挨拶から始めた者は他にいなかったな。尤も我々が呼び出されるのは専ら戦闘中だから、それを交わす余裕もないが。
「今、モーグリが呼べないの」
「それで何故この私を?」
 ティナは私を呼ばない。相手に打撃を与え自らの力を増すよりも、己が身を守るだけに留めたがる。守りより攻めに長けた私とは関わりもなかった。

「あなたにお願いがあって」
 剣を握るには不釣り合いな細腕を、手持ち無沙汰に胸の前で組む。
「ふかふかしてもいい?」
 困った。ふかふかの意味が分からない。しかしティナの好むモーグリという物体を想像すれば嫌な予感が沸く。
「……よく分からないが断りたいな」
 無言だが明らかに断るなと言いたげな顔でそっぽを向かれた。
「そのふかふかなる行為はカーバンクルの方が相応しいかと」
「青いから嫌」
「そうか」
 分からないさっぱり分からない。色は関係あるのか?
「あなたは、あったかそうだから」
 火を司るものとして「あったかい」という温い表現は嬉しくない。全てを焼き尽くす業火こそ私に相応しい。
「あー……ではイフリートは」
「もうしたの」
「したのか」
「ムキムキだったわ」
 そうだろうとも。正直私も似たようなものだが。いや、彼が引き受けたならつまり私が拒絶できる可能性が減ったという事か。
「仕方ない。全力でふかふかするがいい」
「嬉しい」
 花のような笑みとはこれを指すのだろうか。戦時に見る強張った表情からは微塵も窺えない、安らいだ姿だ。

「やっぱりあったかい」
 想像したような醜態にはならず、ティナが私に抱き着いてくる。どの辺りにふかふか要素があるのか疑問だが彼女は満足そうだ。
「……寒いのは嫌だよね」
「ああ。私も苦手だな」
「ずっと寒かったの。前は、誰かが迎えに来てくれた気がするんだけど」
 彼女の世界を知らぬ故に返事はできないが、ぬるい炎で主を温める事はできるだろう。抱きしめた肩は人間らしく小さかった。
「ルビカンテ」
「ん?」
 柄にもないような事をしている気がして何となく目を逸らすと、腕の中から忍び笑いが聞こえた。
「優しいって言われたことないでしょ」
「賛辞は私にとっての不名誉だ」
 対峙した者の安堵よりも畏怖を求める。それが魔物だ。優しさより苛烈を選ぶのが。
「でも、あなたは優しい。そう思うわ」
 しかしティナの言葉には不思議と不快感も沸かなかった。

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