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ゴル×火
生まれ落ちた時の記憶はないが、一つだけ確かなことがある。この世に生じた瞬間から自尊心を捨てたことはない。命を捧げた相手を前にしてさえ、誇り高さだけは何があろうと譲るつもりはなかった。
「ルビカンテ、抱かせろ」
「……は?」
まして第一声がそれでは警戒せざるを得ないだろう。いやもちろん、順序だてて来られても困るのだが。主の気まぐれで精神の支柱を打ち砕かれるのは御免だ。
「お前は油断がならぬ。機会があれば私の立場を覆すやもしれん」
ゴルベーザ様が、私が惚れぬく程の強さを失えばあるいは。全てを捧げはしたが、その価値がなくなれば容易に捨て去れるだろう上下関係だ。尤も、そのような未来が訪れるとは到底思えないのだが。
「自らを脅かしかねぬ者は、徹底的に屈服させておかねばな」
掴まれた顎が痛んだ。その瞳に光るのは追い落とされることへの不安などではありえない。では勝者の自負か? 否。あなたのそれは、単なる性癖ではないのかと言いたくなるが。
「……では私が勝てば、ゴルベーザ様を抱かせて頂きます」
私も他人のことは言えないのだろうな。同性を抱く趣味はないが、打ち負かす喜びは誰より強く求めている。相手が自ら定めた主ならどれほど大きな勝利になるか。
「私に勝てると思っているのか」
「自らの上を行く存在があれば、組み敷いてみたいと思うものです」
「……いいだろう」
愉悦に歪んだ口元を見ながら、傷をつけずに戦う余裕があるだろうかと埒もないことを考える。もし血を流しても自分が癒してやればいい、そんな迷いを生んだ時点で甘すぎたのだと私が気づくのは、意識が戻ってからだった。
「メテオ!」
「えっ!?」
ゴルベーザ様、何もそこまで本気にならなくても……、と口に出す間もあればこそ。のしかかる強大な魔力に意識が押し潰されてゆく。
「受け取れ、これが私の愛情だ」
「そんな愛情表現はいりません」
残虐さがこの方の強さだと知っていた。この痛みの理由はただ、理解が浅かっただけだ。しかしそれにしても痛い。戦いで負う傷とはまた違う種類の痛みだ。例え勝利に酔えても、この気分をゴルベーザ様に味わわせるならば、やはり私の趣味ではないな。
「……ストレス解消ならばカイナッツォにでも頼んでください」
「分かった、次からはあいつに命じることにしよう」
まあ……、我が身に降りかからなければ良しとしよう。私とは違い痛めつけることが快感になるのなら、要は勝てばいいのだから。
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