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火&ロザ

 囚われている身でありながらとは思っても、わたしの心が恐怖に竦むことはなかった。何故か波立つのはいつも、ある一つの事柄だけで。
「バルバリシアが嫉妬するのも無理はない。お前の髪は美しいな、ローザ」
 わたしの髪とあの魔物に何の関係があると言うのか。彼の言うことはいつもよく分からない。なおも愛おしそうな視線を注ぎながら、ルビカンテがわたしの髪を撫でた。
「彼女は自身の髪を誇っている。かつて大切だった者に思いを馳せるために」
 問わず語りの登場人物に、わたしも思うところがあった。

「バルバリシアのことを語る時のあなたは、まるで人間のような顔をするのね」
 そう言うとルビカンテは、わたしの向こうに誰かを透かして見るような、それでいてわたし自身を見ているような不思議な目を向けた。
「お前にとって私が人間のように見えるならばそれは、バルバリシアのせいだろう」
「分からないわ。……彼女は人間なの?」
 訳もなく焦燥に駆られた。見慣れた色が視界の端で踊る。記憶の片隅にも同じ色が。それは、わたしの色? それとも。
「人間だったこともある。名は、」
 それは聞きたくないと、声は掠れて届かなかった。それでも音の無い声を聞いたはずのルビカンテは冷酷に言葉を紡ぐ。
「人であった時の名は、ロザリアと」

 彼女を引き込んだのはルビカンテだそうだ。人であることを捨てさせ、彼女をバルバリシアに変えたのは。その理由などわたしにとってはどうでもいいことだけれど。
「お前と同じ名を持ち、同じ髪を持つ」
 それだけがわたしを打ちのめす事実。
「お前の家族の事情など私の知るところではない。ただバルバリシアは人の生を捨てたいと願った」
 どうしてと、彼女に尋ねることはできないだろう。わたしはそこまで勇敢になれない。今更、尋ねられるわけがない。
「……彼女は、私に願った」
 恐ろしいことに、悲しいことに、この男の語る言葉だけが真実だ。
「消えたい。それで、忘れられるなら」
 そうして彼女は生まれ、彼女は死んだのだ。わたしの預かり知らぬところで……。

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