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土×水

 オレのように好き勝手に姿を変えられれば、女を捕まえるのも楽なものだ。人間にせよ魔物にせよ、この身をそいつの求める形に変えてしまえば、心の隙に付け入るなんぞ造作もない。
 だからまあ、相手の好みに合わせるのは簡単なわけだが、こっちの嗜好はそうもいかねえ。オレは腐った体を抱く趣味はねえんだよ。ついでに宣言しとくと腐った野郎に抱かれる趣味はもっと無い。
「うぜえ……今度は何の用だ」
 部屋に連れ込んだ女が崩れ落ちた。文字通り、いきなりその場で土に還って消えた。ああまたかよ、何度目だってんだ。

「……懲りん奴だな、カイナッツォ」
 さっきまで気配も何も無かった部屋の中に、ぬっと影が現れた。人間の鈍い嗅覚にさえ腐臭が鼻につく。
「何なんだよ、この間から」
 そりゃ普通の手段よりは簡単だが、一応それなりに面倒臭い思いして連れ込んでんだぞ。それがなんだ、いざ事に及ぼうとしたらいつもいつも寝所で崩れ落ちやがって。なんでスカルミリョーネは、オレの周りにアンデッドを仕込むんだ? 見張りのつもりか。
「貴様に勝手な行動を許した覚えはない」
「こっちもてめえの要望に応える義務はねえぜ」
「どうせ人間に化けたのならば大人しく私に抱かれていろ」
「絶ッ対にお断りだ」
「……嫌がるな、嬉しいだろう」
 人の不幸を喜んでんじゃねえよ、オレも言えたもんじゃないが性格の悪い野郎だな。

 この格好のままじゃろくに抵抗もできやしない。貧弱な人間のまま下手にやり合ったらオレが死ぬしな。代わりにスカルミリョーネも遠慮してるらしいのはいいんだが、命とは別のところで危険がある。いや全く、こいつにそういう趣味があったとは知らなかった。
「元の姿に戻れ、カイナッツォ。私は強く傲慢なお前をいたぶるのが好きなんだ」
 んなこと言われて素直に戻る阿呆がいるか。しかし人間のままだと尚更怖え気もする。どうしろっつうんだ。
 大体なんでこいつはオレに付き纏うんだ。相手してほしいなら男でも女でも他をあたれよ。嫌がられるほど快感だとかどんな変態だ。根暗なのは知ってたがここまで危ない奴だとは。
「……何故いつも他の者の所へ行く? 何度教え込めば分かるんだ」
 どっからともなく沸いて出てきたアンデッド共が体中に纏わり付いた。霊体に撫で回されるってのは大層気持ち悪い。あーやっぱ元に戻らんで良かったぜ。普段の格好だと甲羅ん中にまで入って来るからな。あれは最悪だ。
「痛みと快楽、どちらがいい? お前は自尊心を傷付けられる方が嫌いだろうな」
「ああ、てめえと違ってな」
 卑屈が行き過ぎてプライドも何もありゃしねえ。オレに対してすら執着心を剥き出しにして、離れていくのを怖がってんのは誰だ。
「そんなに捨てられるのが怖いかよ」
「信じなければ、裏切られることだってない」
 そう言いつつ自嘲するように笑った。笑い方まで暗いなこいつは。まあここで満面の笑みなんぞ浮かべられても気色悪いが。

「言っとくがスカルミリョーネ、お前は救いようのない阿呆だ」
「……何だと?」
 それで心を開いてないつもりか、笑わせる。結局、信じたいから執着してんじゃねえか。どうでもいいならオレが何をしようと放っときゃいいんだ。そんなことも分からんとはな。
 まあ、こいつが追って来るのを分かって逃げてるオレも、な。このオレがなんで弱っちいお前なんかに、されるがままになってやってると思ってるんだか。

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