─back to menu─


カイセシ

「そう邪険にすんなよ、オレとお前の仲だろう」
「僕はお前なんかと関係を築き上げた覚えはない!」
「何故そう言い切れる。お前の記憶にある男はオレだったのかもしれんぞ」
 嫌なところをついてくる。苦々しげに睨みつけるのが精一杯で、そんな僕を陛下の姿を模る魔物が愉しそうに見つめていた。
 逆らったのは、揺らいだのは、偽者だったからだ。あれが本当の陛下であれば僕は全てを受け入れたはずだ。だけどそれを証明できない。
 明確な境界が存在しなければいけない。温かな記憶となって残るあの人を、裏切りたくないから。
「お前のことなど知らない。僕の陛下は、僕の誕生日には必ず公務をサボって一日一緒にいてくれた優しいあの人だけだ」
 それでいて不満を零す配下には圧力をかけて黙らせ、おかげで僕が厄介事に巻き込まれることもなかった。王として父として甘やかしてくれたあの人が、魔物であるはずがないんだ!
「あー、そうそう。いい口実ができて有り難かったぜ」
「……え」
「なんだかんだで奴らもお前に弱いからなぁ」
 どこか遠くを見つめる瞳は、確かに僕と同じ記憶を見ている気がした。い、いや、絶対に気のせいだ。見間違いだ。

「お前は、いつからこの国にいるんだ」
 ずっと聞けなかった、聞くのが怖かったことを、何故か今は尋ねてしまった。いつ陛下を殺したのか。いつから、僕のそばにいたのか。……本当はずっと知りたかった。
「さてな。年数なんぞ覚えてねえ」
「僕がカインと一緒に道具屋の壁に落書きしたのを代わりに謝ってくれたのはお前じゃないだろう」
「ああそりゃオレだ」
 いともあっさりと頷いて、あの主人を引かせるのに苦労したんだぞとか恨み言を言われた。……だってあれは、僕がまだ11の時だ。
「そんなの、嘘だ」
「そう信じていたいだけだろ?」
「だって、その時はまだ、皆に慕われる陛下だったはずなのに!」
「つーかまともな人間が国ほっぽりだしてガキ一人に構うわけねえだろ、阿呆か」
 では……では、僕が共に思い出を作ってきた陛下は、喧嘩して仲直りして本当の家族のように過ごしてきたあの人は。変貌し苦悩を招いたバロン王も、それ以前の僕が大好きだった陛下も、全部……。
「みんな、お前だったのか……? 僕が女みたいだとからかわれた次の日に、そいつが城壁から逆さ吊りになっていたのも?」
「それは忘れとけ」
 あの頃は小さくて可愛かったのにと、心底無念そうに呟いた目の前の男には、確かに僕の求める面影がある。でも、軽蔑し憎んで斬り捨てた魔物の下劣さも、やはり持っている。

 すとんと胸に落ちた。なんだ、そうか。始めから同じだったんだ。迷う必要も、憎む必要もなかった。陛下はずっとここにいたんだ。
「恨む必要なんか……無かった?」
 心に凝り固まった何かが溶けていくのを感じる。駄目だ。僕はバロンの騎士なのだから、魔物なんかを許してはいけないんだ。例え僕にとっての陛下がこいつなのだとしても、バロンにとっての陛下は違うんだから。
 分かってる。分かってる、けど……。
「オレは恨まれてる方が楽しいがなぁ」
 心底楽しそうな顔を見てたら、自分が固執しているのがどちらなのか、分からなくなった。

|



dream coupling index


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -