─back to menu─


カイセオ

 べつに誰のために戻って来たわけでもない。強いて言うならゴルベーザ様のためだが、他の奴ら程べっとり傍にいたいとも思わねえ。
 内面を見るなら今のあの方は、オレが命を捧げた主じゃねえしな。魔物が酔いしれて身を任せられるような濃い闇はもうどこにもなく、ただ陰欝な因縁が残ってるだけだ。忠誠は尽くそう。だが、それ以上は何もない。
「カイナッツォさん」
 ……だからって他の誰かのために戻って来るわけもない。せっかく生き返ったならもう一度好き勝手に生きるだけだが、なんで纏わりついて来る奴がいるのか。
 大体お前はどっちかっつうと敵だろ。

「カイナッツォさん、見てくださいこれ」
 差し出された分厚い本を見て、嫌な予感がした。というか悪寒だ悪寒。セオドアが大事そうに抱えたそれは動物図鑑だ。開かれたページの内容は……見たくねえ……。
「専門家はトカゲの生殖器に綿棒を入れて雌雄を調べられると書いてあります」
 だから何なんだって、聞いたら負けかと思っている。だが空気の読めないガキはオレがどうしようが自分から教えてくる。頼んでねえよ。見たくないし聞きたくないし知りたくない。
「だからきっと大丈夫だと思うんです、……どうして急に人間に化けるんですか?」
「身の危険を感じた」
「同じ爬虫類なのに……」
「オレは亀じゃねえッ!」
 第一トカゲと亀じゃ違いすぎるし調べるまでもなくオレは男だしてめえは専門家じゃねえだろ。ついでに突っ込むもんが綿棒どころじゃねえ! 何もかもが間違ってんだよ!!

「…………」
「なんだその不満げな顔は」
「僕はいつでも、あなたの専門家になりたいと思ってます」
「気持ち悪い」
 何考えてんだ。セシルは一体どういう育て方したんだ。懐が広いってんじゃ済まねえぞ。それをなんだかんだで受け入れてるオレも意味が分からん。
「おかしいですか?」
「おかしくないところがあるのか?」
「…………」
「だああっ、分かった悪かった、嬉しいよああ嬉しいとも!」
 おかしいのは確かだがな。……オレだって充分おかしい。ゴルベーザ様と、人間と過ごしちまったのがもう間違ってたのかもな。一度受け入れちまえば……知るのが楽しいとさえ思っている。
 ああ、感化されすぎだろ、ちくしょう。

|



dream coupling index


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -