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ベイカイ

 何が何だか分からねえ。どうやらオレは正気を失ってるらしいと、どこか遠くで考えている。
 目の前にいるのは敵だ。誰だかも分からないその影は、敵だ。仲間なんてものは存在しないんだから当たり前だ。
「陛下、お迎えにあがりました」
 だからその声を聞いて冷たい何かが頭を冷やしても、正気には戻らない。敵と対峙するのに理性なんぞ必要ない。引き裂いて殺してしまえばいい。……できる限り早く。

「ああ、何たる事だ……私の陛下が敵の手に堕ちるとは! 無理やり跪かされる屈辱の表情を私だけが知っていたのに!」
「てめえそれが側近の言う事か」
「よくぞ現実におかえりになりましたな、陛下。さあ私と共に旅立ちましょう」
 しまった、ついツッコミ入れちまった。あまりにも耐え難い不快感だった……。何なんだよ。なんでこいつが蘇って奴らの仲間に加わってんだよ。
「もちろん再びあなたを手篭めにするためです」
「誰がいつ手篭めになった!」
「私の腕の中でよがり悶えためくるめく日々のように」
「脚色すんじゃねえええ!」
 ああくそ、正気になんか戻るんじゃなかった。見てんじゃねえよてめえら。さっさと戦え。オレを倒せ。頼むから。お願いします。

「遅くなってすまなかった……苦しかっただろう……」
「ゴ、ゴルベーザ様……」
 どうかお助けを、あの悪食近衛兵長を闇に還し……、いやもういっそデジョンでどっかへ消し去ってください。
「幸せになるのだぞ、カイナッツォ」
 その涙は想定外だ。こんな時だけ鈍感にならんで下さい。
「義父上、息子さん?は必ず幸せに致します」
 誰が義父上だ。疑問形で呼ぶな。つーか息子じゃねえよ。駄目だこいつ正気じゃねえ。前から異常だったが死んでから吹っ切れて狂っている……。
「うむ、我が配下を頼んだぞベイガン」
 あの日に帰りたい。ゴルベーザ様が純然たる悪の心を持っていた頃に帰りたい。天然だのボケ気質だのどっかの白騎士のようなコピーを背負っていない、唯一絶対の主に従っていられた頃に帰りたい!

「陛下、今度こそ幸せになりましょう。二人で!」
 オレは一度たりともお前との幸せを望んだ事はない。死んだままでいた方がいい。ずっといい。むしろゼムス様のところへ行きたい。
「ご心配なく陛下、バロン城の私の部屋に貴方のための絢爛豪華な水槽をご用意しましょう」
「見たくない…っ。何もかも、もう二度と、見たくない!」
 主に現実と未来を見たくない。頼むから地獄でゆっくり眠らせてくれ!

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