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土×風

 誰にどんな影響を受けたのか、近頃バルバリシアは料理に執心のようだ。人間の世から仕入れた知識で作ったそれを、ゴルベーザ様へ差し上げるならまだ理解もできる。……なぜ私に差し出しているのか。
「何よ。食べたくないって言うの?」
「そういう訳ではないが……」
 見たところ怪しいものではなさそうだ。そこが尚更恐ろしい気もするが、なんにせよ私に毒など効かない。何を考えてこんなものを用意したのか。
「うたぐり深い顔してないでさっさと食べなさいよ。まずくはないわ。……多分」
「お前が作ったのだからまずいはずがなかろう」
 そう切り返した途端バルバリシアの頬が染まった。何故だ。見慣れない現象にこちらまで硬直してしまった。
 褒められて照れるような可愛いげがあっただろうか? かと思えば今度は怒りだした。相変わらず起伏の激しい女だ。

「な、何を馬鹿なこと口走ってるのよ、自分が何を言ったか分かっているの!?」
「事実をありのまま口に出しただけだが」
 今度は絶句し、そっぽを向いたまま黙り込む。よく分からん奴だ。
 バルバリシアは確かにがさつだが不器用ではない。人間にできるのだから、料理ぐらい、できて当然だろう。例え勝手が分からず手順に迷いが生じても、プライドの高いバルバリシアが失敗作を私に見せるはずがない。ならば目の前のこれは間違いなく美味だろう。
 何がおかしいと言うのか。私はただ客観的な意見を言っただけだ。何も、バルバリシアの料理ならば何でも美味いに決まっているとか、そんな妙なことを言ったわけでは……。いや……言ったも同然かもしれない。
「今のは取り消す」
「何よ、やっぱりまずいって言うの!?」
「い、いや、そうではなく」
 褒めれば気味悪がられ、否定すれば怒られ、では一体どうしろと言うんだ。

「結局どうなの。とにかく食べなさいよ」
 渋々ながら彼女の作ったものを口に運び、鈍い味覚をできうる限り過敏に反応させる。
「……美味いと、私は、思う」
「ふーん」
 あれだけ騒いでおいてその返事は何だと、喉元まで出かかったが後が怖いので黙っておく。
「変なの」
 何がと問い返せば、不機嫌極まりない顔で、声だけが弾んで答えた。
「なんか嬉しいわ」
「……そうか」
 私は別に嬉しくないが。これを全て食い終えるまで解放されないのだろうか。まったくもって嬉しくない。どうせ味もよく分からんというのに。……嬉しいわけがない。欲しくもないものを与えられても。
「……私も少し変なようだ」
「そうね」
 嬉しくはないが、またこんな機会があってもいいと思う。

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