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土→火
誰かを信じたことなどなかった。ゴルベーザ様のことでさえ信じているわけではない。ただあの方にならば全てを捧げられると、私の望む世界をくださると思えた。だからそのために従うだけだ。
世に存在する何者とも関わりたくない。滅び去った世界で一人孤独に朽ち果てたい。
「スカルミリョーネ」
……なのに、何かと構われるのは何故なんだ。我等に馴れ合いなど不要のはずだが。
「怪我をしたらしいが具合はどうだ」
言うのがカイナッツォやバルバリシアなら厭味としか思えんが、こいつの言葉は不思議に響きのままに聞こえるな。
「……どうもこうもあるか」
死した肉体に具合の良し悪しなどあるものか。怪我をしようが腕が取れようが、取り替えればいいだけのことだ。
「お前は無頓着だな。そう徒に傷を増やしては四天王としても不名誉だろう?」
苦笑するルビカンテの表情に嘲りの色はない。……厭味ではない。それは分かっているが……腹の立つ奴だ。暗に気遣われるよりも真っ向から「お前は弱い」と言われた方がマシだ。
「見せてみろ」
有無を言わさず掴まれた腕が熱い。私が炎を苦手としているのを、分かってやっているんだろうか。ならば振り払うこともできるのに……。無自覚に迷惑な好意など厄介なだけだ。
「そう深い傷ではないな」
「……腐っても四天王なのでな」
無駄な時間を過ごさずとっとと何処かへ消えてくれと、苛立ちあらわに振り払おうとした腕は動かない。熱の篭る掌に掴まれたままびくともせず、更なる苛立ちを呼ぶ。
黙りこくってじっと私を見つめていたルビカンテが、不意に跪くように屈み込んだ。
「何を、……!?」
皮膚よりも熱い何かが傷口に触れた。驚きのあまり呆然とする私に、不敵な笑みが向けられる。
「お前に白魔法をかけるわけにもいくまい」
見れば、血も流さず口を開き続けていた傷が、跡形もなく消え失せていた。
「……治療するにしても、普通にしてくれ……」
心臓が動き出しそうになった。
「周りに無頓着な相手に愛を伝えるには、良いと思ったんだがな」
「気色の悪い嘘はやめろ」
何が愛だ。つもりがなくても嫌がらせだ。……ただの仲間意識だろう、お前のそれは。明け透けな好意など私に見せるな。真っ直ぐに心配なんかしないでくれ。
「見ている私のためにも、あまり無茶はしないでくれ」
邪気のない笑顔を浮かべて未練のかけらも見せずに去って行く。奴の言葉に中身がないのは分かっている。分かっているが……。
「まだ、騙したままでいて欲しい」
本人の前で、口に出す勇気もないのに。
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