初恋


 忠誠と情愛を隔てるものがあるとすればそれはただ一つ、性欲を伴うか否かという点だろう。その目的を妨げるものを退け、その目的の達成だけを目指して、心身を懸けて相手に尽くすということ。そこに彼への欲が加われば愛になる。
 ゴルベーザはさして考え込むこともなく、主へのそれを恋愛感情であると決定した。
 彼に触れたい。触れられたい。よくやったと誉められたい。尽くしているだけでは足りなかった。
 耐えきれず眼前にある黒衣に手を伸ばしても、ゴルベーザの手は愛し人の体をすり抜け虚空を掻いた。冷たい嘲笑が頭上に落ちる。
 ゴルベーザの主は地上の存在ではなかった。といって死んでいるわけではない。ただ、目の前にあるのは彼の幻だった。
 彼は天にいる。遠い月から地を這う虫けらを見下ろして、そしてゴルベーザを呼ぶのだ。我がもとに来いとずっと呼び続けている。這い上がれ、この手に届く場所まで、そうすれば――。

 欲望のままにゴルベーザは彼に尽くした。愛する人の望むようすべてを運んだ。
 ゴルベーザに親はないが、もしもいたらきっと嬉しそうに告げるだろう。暗く夜空に光る月を指して無垢な目をした子供がわらう。あれが私の想い人です。あれこそがこの青き星を滅ぼす救世主、私が初めて愛した人。
 忠誠を誓った。そこにいつしか欲が加わった。支配されるだけでは足りない、己が思いの丈を彼に味わわせたい、心の赴くまま彼の存在を貪りたい。だから、愛のためにゴルベーザは、月へ行くのだ。




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