ちょっかい


 任務がなくて暇だからと協会近くをぶらついてたら、買い物帰りと思われるユカリに遭遇した。出会ったとかじゃなく出くわしたって感じだな、この娘。やせいのユカリがあらわれた! ってな風情だ。
 なんでそんなに威嚇してくるの? オレなにかしました? ヒーローの顔見るたびに喧嘩ふっかけてんのかね〜。
「よーう、晩飯でも買ってきたのか?」
 とりあえず気さくに声をかけてみたが毛を逆立てそうな勢いで睨まれた。つらい。
 ユカリの笑顔なんて、パシリ以外で見たことあるやついるんだろうか。天才マンや世直しマンだって怪しいもんだ。とにかくパシリ1号以外はこの世のすべてが大っ嫌い、と言い出しかねないひねくれものだからなあユカリは。

「この辺に住んでるんだっけか」
「あんたには関係ないでしょトランプマン」
「スペードマンです」
 確かこいつは一時期地球に住み着いてて、その後パシリの説得を経てヒーロー星に家買って世直しマンと元お手手戦隊指レンジャーの面々と一緒に暮らしていたはずだ。大所帯だけに買い物袋も巨大だった。
「仕方ないなあ優しいオニイサンが家まで持って行ってあげよう」
「ちょっと、いらな……返してよバカ! ババ抜きマン!」
 誰がババ抜きマンだ。スペードマンだっちゅーに。
 慌てて追いかけてきて荷物を取り返そうとするのをかわしつつ、目指すべき家を探した。噂じゃ会長がつけたバカ高い値の物件を地球で荒稼ぎしてたユカリが買ってやったらしい。ちらりと横目で眺めた彼女はいかにも頼りなげな小娘で、どうも信じられん。
 しかしまあ、パシリ1号にしろ世直しマンにしろ、心配して身の回りの世話焼いてくれる家族がいるのはいいことだ。これでこいつが他のヒーロー連中とも仲良くできれば言うことないんだがな。

 ユカリが追いかけて、パシリも満更でもない。一見したところ勘弁してほしいくらい仲のいい二人だが、天才マンなんかはこいつらの関係に不安を感じてるようだ。無理もない気がする。こいつはいつも張りつめてるし、パシリの方もまだそれを和らげてやる余裕がない。要するにどっちもガキなんだよなあ。
「なあ、占ってやろうか?」
「いらない」
「って話くらい聞けよ! お前らの将来とか気になるだろ」
「ならない。いらない。聞きたくない。死ね。そして荷物を置いて失せろ」
 死んだあとに失せるのは無理なんじゃないかと思うがまあそこは聞き流しておくとして、頑なに俺から距離をとって歩くユカリが本当に占いに興味がなさそうなのは気になった。占いの結果できゃいきゃい騒ぐタイプじゃないだろうが、自分たちの不安定な関係をこいつ自身はどう思ってるんだ?
「……占いなんて、意味ない。わたしはどんなときでもスーちゃんが好きだし、スーちゃんが誰を好きになってもわたしの気持ちは変わらないんだから。迷いがないのに導きなんていらない」
 俺の心の声でも聞こえたのか、いかにも嫌そうにしながら答えたユカリの言葉には、不確かなものに頼る必要を感じない強さがあった。……でもなぁ。

 たどり着いた家は、住んでる人数のわりには質素だった。なかなか趣のある地球家屋風の一戸建てだ。努力マンなんか訪ねてきたら喜ぶだろうな。しかし、ヒーロー星には良くも悪くも似つかわしくない。
 どうしても刺々しさが抜けないらしいなあ。
「おっ、そうだ。いいこと教えてやろうか」
 こいつがどうしても心を開けないように、俺はどうしても世話を焼かずにはいられない。きっとそういう性分なんだよな。
 俺の手から買い物袋を引ったくって、無視して玄関の戸をくぐろうとする背中に声をかけた。
「パシリ1号に『熱中症ってゆっくり言って』って言ってみな。面白いことになるぜ」
 はたと立ち止まったユカリはその意味を考えていたのか、しばらく背を向けたまま固まっていた。やがてサッとこちらを振り返り、肩をすくめる。
「ばかみたい。そんな謎かけに頼るくらいならさっさと押し倒したほうがずっと前向きだ」
 ……意外と男らしい。俺や世直しマンだって酒の席で冗談まぎれにやるのが精々なのに。

 今度こそ家の中へ入り、別れの言葉もなく扉が閉まろうとして、俺が諦めて立ち去ろうとした瞬間。
「ありがと……」
 大慌てで顔を見ようとしたが扉はもう閉まっていた。なるほど。こっちからつつけばそんなに頑ななヤツじゃないって天才マンの言葉は事実だったみたいだ。こういうところが放っておけない気持ちにさせるんだろうな。




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