私にとっては何の前触れもなく、突然ユカリが頭を押さえて俯いた。具合を悪くしたのだろうかと慌てて肩を抱き寄せる。何かを振り払うように首を振ったあとで彼女はほっとため息をついた。
「どうした?」
「風が……」
 そう言ったあとすぐに、ユカリの髪がふわりと突風にさらわれた。ふと気づけば周囲でも木がざわめき草が揺れ、あらゆるものが強風にもてあそばれている。
「ルビカンテなんで平気なの?」
 空気が目に入るのか、ユカリは顔を手で覆い隠して私にすり寄ってきた。どうやら先程からずっと風に苦戦していたようだ。
「私はそういったものの影響を受けにくいからな」
 私は火の化身だが雨風ごときでいちいち死にかけていては堪らない。我々四天王はもともと、魔力を伴わない自然現象には強くできている。雨が降れば体に触れるよりも先に消し飛ばしてしまうし、どんなに強い風であろうとこの身を揺るがすことはない。
 ユカリは炎のマントにくるまると、不服そうに口を尖らせて私を見上げた。
「わたしの分も避けてくれたらいいのにー」
「他人を守る方法はよく分からないんだ」
 実際こうしてマントに匿っていても、私の炎がユカリを傷つけずに済んでいるのかよく分からないくらいだ。風を避けるなど本能のままに行っていること。どうすれば彼女もその庇護下に入れられるのか、想像もつかない。
「今日は風が強いようだな」
 乱れた彼女の髪を撫でながら不意に思う。人間は全身で自然を感じている。私には身に馴染みすぎて通りすぎてしまうような雨の冷たさや風の勢い、火の暖かさが、彼女には深く受け止められる。
 魔物というものは死ねば消滅してそれまでだと思っていたが、案外、ひとの心の中などに生きていられるのかもしれない。




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