黒い部屋


 ユカリが部屋を改装した。彼女の部屋ではなく、私の部屋だ。昨日見たときと一変した様相に驚きを隠せない。が、鎧兜に阻まれて私の表情など見えぬユカリは、どういう反応を見せるのかと期待に満ちた瞳でこちらを見ていた。
「ねえねえ、居心地どう?」
 丸一日を費やしての模様替えだった。昼間は食事もとらずに打ち込み、かつてない真剣さで作業に臨んでいた。その甲斐あって私の部屋はすっかり見違えた。
 隅から隅まで黒一色だ。床も天井も壁も、僅かに置かれた家具、本棚やその中に並ぶ書籍の一冊一冊、小さなテーブル、片割れをユカリにやったソファーも、ベッドも、整えられたシーツまでも真っ黒だ。
 ここまで徹底するには大変な労力を必要としたはずだ。素直な感想を述べれば機嫌を損ねるかもしれないが、興味を抑えれなかった。どんな顔をするのだろう。こうも苦労した仕事に否定的な感想を聞かされたら、ユカリはどう反応するだろう。泣くだろうか?

「……居心地か。あまり良くないな。圧迫感があるし、壁に押し潰されそうな気がする」
 実際それは事実であった。明かりをつけていても黒に吸い込まれていくようだ。己の居場所がみるみる小さくなってゆくような錯覚が起きた。自室でありながら寛ぎとは程遠く、長居したくなる空間でないのは間違いない。
 ユカリは怒らなかった。それどころか私の返答を聞いてにへらと相好を崩し、とても嬉しそうだった。予想外だ。
「ゴルベーザってしょっちゅう出かけるし、ここにいても部屋にこもって出てこないでしょ」
 言われてみればそうだったかもしれないな。国々を滅ぼす算段をたてているとき、彼女には私の姿を見られたくなかったから。
「部屋が居心地悪かったら引きこもらないかなあ、って思って」
「つまり、構ってもらいたくてこんなことを?」
 問い返すと彼女の頬が微かに赤くなる。
「まあ……、そう言えなくもないよ」
 照れくさそうに俯いて答えるのが愛らしく、つい無意識に頭を撫でた。早く世界を滅ぼせと急き立てる声ならば聞き慣れているが、仕事をするなと言われたのは初めてだった。
「お前の部屋へ行こう。少し休憩したい」
「やったー」
 ここは居心地が悪いからと理由をつけて、これからは気軽に部屋を訪ねられる。してみればこの改装は、気に入ったと言わざるを得ないな。




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