その正体


 遠く荒れ地のむこうを睨んでギルガメッシュが呟いた。
「なあエンキドウよ。お前は俺様より目が悪いが……」
 ついさっきまで雑魚を蹴散らして遊んでいたときとは違う、深刻な顔だ。「あれが見えるところまで行って確かめてくれ」と指をさすが、俺には何も見えなかった。
「何かあるのか?」
「お前は俺様より目が悪いし、顔も悪いし、頭も悪いが」
 真面目な顔を崩しもせず言うのでとりあえず殴った。
「顔はお互い様だし頭はお前よりマシだ」
「とにかく、お前は俺より素早く逃げられるだろ。あの木を見てきてくれ」
 嫌がるギルガメッシュを引きずって指し示すほうへ近寄ると、遠くに辛うじて一本の木が見えた。あれって、あれかあ?

 荒れ地に一本だけで立ち尽くす大きな木は、確かに妙な違和感がある。だがべつに怯えるようなものでもないだろう。
「顔があるように見えるんだよ、あれ!」
 葉が繁ってることがギリギリ分かる程度で俺にはそこまで判別できない。このアホはつい最近ひどく酔っぱらって「暁の戦士だぁ〜!」なんて叫びながら壁と戦っていたし信用ならん。見間違いじゃないだろうか。でなければ……。
「マコトかもしれないな」
 散歩に出たまま行方不明になっている仲間の顔を思い描いた。帰る方法を探すのが面倒と言って、おそらくその地に文字通り根付いているだろう、マコト。木に浮かび上がるのは彼の面影ではないか? そもそも俺達はマコトを探しに来たんだ。
 犬猫だって自分で歩いて帰ってくるのに植物混じりのあいつはまったく、世話が焼ける。
「ま、ともかくさっさと確かめて連れて帰ろう。ほら行くぞ」
 遠景に溶けそうなな細い影を睨みつけてギルガメッシュの腕を引っ張ると、後ろからどつかれた。
「このあんぽんたん! 不用意に行って木のオバケだったらどうすんだよ!?」
「……」
 さっきからビビってた理由はそれかよ。

 俺達の主もある意味では木のオバケじゃないかと思ったが、不敬な気がしたから黙っとこう。
 確かに植物に属するモンスターってのは厄介だ。何を考えてるのか分かりにくいし、種族全体が根っこで繋がっているから個の知識が全に行き届き、それぞれが俺達よりずっと深い思考を持っている。だからこそエクスデス様のような偉大な方が生まれてくるんだ。
 もしあれがマコトではなくモンスターで、俺達を敵とみなして襲われたら、面倒なことになるだろう。だが足踏みしてても仕方ない。
「ギルガメッシュ、お前あいつに戻ってほしくないのか?」
「いいや。あいつが居ないと困る」
 そう素直に返されると思わなかったが、困る理由を問いただすと幻滅しそうな予感がした。きっと「武器を磨くやつがいない」とか「部屋の掃除を押しつけるやつがいない」とかそんなことだろ?
 まあいいけどな。つまりはマコトを連れ帰りたいという気持ちが重要なんだ。
「じゃ、行くぞ」
「……モンスターだったら俺はすぐ逃げるぞ」
「分かった分かった」
 マコトは、モンスター混じりだ。余程近づかないと……例えば相手の攻撃範囲に入るくらいでないと、判断はできない。不意打ちをくらうのも覚悟のうえで、だ。
 面倒くさがる気持ちは分かるさ。俺だってマコトでなければこんなに真面目に探すもんか。

 目線の先で木が揺れた。これで、ただの木でないことははっきりしたわけだ。さてあれは探し人か、それとも俺達の敵なのか。どうしてあいつは、ものぐさなくせにせっせと面倒を運んでくるんだろうなあ。




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