怪獣マッサージ
燃え尽きたぜ……真っ白にな……と、笑い事で済ませられたらいいんだが本当に心が落ち込んできた。
俺はやっぱり戦いに向いてないのか? もうウルトラ戦士に戦いなんて挑まないで、やつらに化けて人間騙してせこい悪事働いて光の国の評判を落としながら地道に生きろってことなのか。
でも、誰かに化けるのも疲れるんだよな。軽蔑の視線が向けられてるのは俺じゃなくてウルトラマンだ、って思うとスカッとする。けどあとに残る虚しさは何なんだ。
「そういうの自業自得っていうと思いますけどぉ」
「うぐぅ……姐さん冷たい」
「姐さん言うな」
ただ愚痴りに来ただけの俺を歓迎するムードこそないものの、ユカリさんは一応いつものようにお茶を出してくれる。そのうち勝手に茶菓子を摘まめるくらい馴染めたらいいなあとは思っているんだがな。
今日は客間じゃなくユカリさんの部屋に通された。といっても普段は極小サイズの彼女が実際に使うのは地球から運び込んできたミニチュア家具に囲まれてる僅かなスペースだけで、俺がぐったりもたれかかってるソファーや彼女がお茶うけを乗せてくれたテーブルも埃にまみれている。
今みたいにずっと俺達と同じ大きさでいれば、同じように生活できるのに。さすがのおやっさんもそこまでのエネルギーは無いらしく、たまにこうやって巨大化している時以外は不便そうな暮らしぶりだ。
侵略活動は飽きちゃったし俺もそのナントカ鉱石を集める手伝いをしようかな、なんて。そうすればここに居座れるし。
「あーあ、帰りたくない」
「……仕事帰りに飲みに来たサラリーマンみたい」
「なんスかそれ?」
何でもないと肩を竦めると彼女は、つかつかと俺の背後にまわってきた。ちょっとだけ警戒する。
「暇だし、肩でも揉んであげるよ」
……はい?
いやいやいいですそんな悪いですおやっさんとかあの怖い参謀と将軍にばれたら何言われるか分からないし遠慮します、と焦りつつもぎゅっと掴まれた腕が割合気持ちよくてついつい甘えてしまう。
マッサージかー、最近してもらってないなあ。
「この辺?」
「あー、もうちょい上です」
ユカリさんが揉んでいるのは主に腕だった。それも気持ちいいけど、どちらかと言えば肩凝りがひどくて。我ながら年寄り臭いが。
「ここらへん?」
「もうちょっと上です」
「肩の範囲分かりにくいよ!!」
同じやりとりを繰り返して姐さんはキレた。そうして打ち込んだ拳がヒットしたところが俺の肩です。
肩が分かりにくいってなんかそれ、前にも言われたな。俺の腕から肩って地球人にはそんなに見分けにくいのか? 撫で肩だとはよく言われるけどさ。
「ベリアルの方が分かりやすくて揉みやすい〜」
「す、すんません」
なんだかよく分からない怒られ方をして、呼び捨てはまずいんじゃないかとおののきつつユカリさんに身を任せる。
彼女は時々おやっさんの肩揉みをしているそうだ。あのマントが重くてつらいと巨大化させられるらしい。マントしなきゃいいんじゃないかねぇ? しかし慣れてるだけあって彼女はコツをつかむのが早かった。二度三度尋ねただけで的確に凝りのひどいところをマッサージしてくれる。
あまり力は強くないが、やさしくてやわらかくて、きもちいい。雌じゃなくて女の子なんだなあと思う。そういう地球人にしかない概念はちょっと好きだ。
彼女の手が悪の皇帝を癒して、そいつがどっかの星で破壊活動に励み、なんか不思議な循環だな。どうでもいいこと考えてたら眠くなってきた。
「前に地球でやってもらったときも気持ちよかったなあ」
「……地球でぇ? 怪獣がマッサージって」
「俺も地球人サイズになろうと思えばなれるんで」
「全然そういう問題じゃないんですけど、まあいいや」
今度イーヴィル達にもやってくれないか頼んでみよう。こんな風に緊張感から逃れて背中を預けて、疲れを癒してくれるひとがいれば俺達もウルトラマンに勝てるかもしれない。
そこまで考えて不意に気づいた。やっぱり戦いたいのか、俺は。そりゃそうだな。死ぬのは嫌だけどだから敗者に落ちぶれてもいいなんて思わない。俺だって力をふるいたい。役に立ちたいんだ。
沈んだ心は浮上したけど、あまりに気が抜けすぎて、姐さんの「寝てない?」って声をぼんやり聞きながら、俺は眠りに落ちていった。
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