くつろぎ


 マレブランデスっていったか。おやっさんがアジトにしているこの要塞、なんか居心地がよくて入り浸っちまうんだよな。せっかく生き返ったんだから侵略活動を再開すべきなんだろうが、もっとスケールのでっかいもんを見てしまったせいか最近どうでもよくなってきた。
 今日もおやっさんはいない。手下の二人を連れて別の星を侵略中だそうだ。宇宙を跨いで支配しようとしてるなんて最初に聞いたときはホントに驚いたな。地球ひとつでせこせこ戦ってた俺は何だったのだろうかと。
 あのナントカ参謀とカントカ将軍ってのは苦手なんでいない方がありがたい。他のやつらが都合つかずに来られなかったのは残念だが、姐さんがいれば俺はとりあえず満足だからいいや。

 姐さん……と呼ぶと怒られるんだったな。ユカリさんは、今日はいつもの地球人サイズじゃなく俺達と同じ大きさになっていた。地球人は小さすぎて潰しやしないかとハラハラするからこれもまた俺にはありがたい。
 かくいう俺も今日はいつものにせウルトラマン姿じゃなくて、本来の俺ザラブ星人として来ている。そのせいで知らないひとだと思ったユカリさんに変なロボットをけしかけられたうえ今も胡散臭そうに睨まれているわけだが。
「急に姿形かえられたら誰か分かんなくなるんだよ、シャ……あなた……あの、にせウルトラマン」
 薄々感じてたけど俺がザラブ星人だってこと分かってないよな? 今ぜってーシャプレー星人って言おうとした。おやっさんもまた忘れてる気がする。……べつにいいけどな!!
「一応こっちが本来の姿なんで、慣れてもらえりゃありがたいなと思うわけですが」
「んーまあ努力する。でもなんか変身する気持ち分かるよ、微妙にキモいし」
 えっ? 俺キモいの。ウルトラマンに化けてるときは目付き悪いとか言われたけど素に戻るとキモいの? そんな真顔で言われると地味にショックだぜ……。

「言っちゃあなんですが、ここのやつらも似たようなもんでしょ」
 あのダークなんとかもアイロンだかいうやつも。やたらと尊大なあいつらだって姐さんから見れば馴染み薄い怪獣ってやつで、俺のほうがまだしも人間に近い形をしてると思うんだが、彼女はそう思わないらしかった。
「アイアロンはキモくないもん。ダークゴーネだって……変人だけどかっこいいわよ。変人だけど」
 ムッとした様子のユカリさんにちょっとばかりへこんだ。というか、拗ねた。あんた俺には面と向かってキモいなんて言っといて。
「そぉっすかねェ〜」
 身内贔屓ってのかな。単純にいつも一緒にいて慣れただけかもしれないが、少なくともユカリさんはあいつらに、「他人にけなされたくない」ってくらいの好意は持っているようだ。俺が悪く言うと不機嫌になる程度に。
 いいなぁ。なんか羨ましいな。仲良くて。

 普通の地球人は怪獣に対してあまり好意的でない。じゃあなんで彼女は、おやっさんの手下には甘いんだろう。“カイザーベリアル陛下の臣下”っていう共通認識が絆を編み上げてるんだろうか。一度、あいつらのどっちかに化けてユカリさんに近づいてみたい。
 ……なんて思ってみる。もちろん思っただけ、なんだが、気づくとユカリさんが眉間にシワ寄せて俺の顔を覗き込んでいた。
「なんか怪しげなこと考えてない?」
「な、何のことでしょーか!」
 どうしてばれたんだ。
 平然としてようと思うのにおどおどしてしまう俺を上から見下ろして、彼女はフッと微笑んだ。あ、こういう顔は初めて見たな。
「あんまりかっこよくないけど、こっちの顔の方が好きだよ、わたし」

 なんでかなあ。どっかの星を侵略しに行くより何より、ここに入り浸ってるほうがずっと楽しいんだ。




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