夢の終わり
まるでうたかたのように、浮かび上がっては消えてゆく光の粒のなか、たくさんの顔が見えた。みんな幸せそうだった。ようやく苦しみから解放されたと言いたげに微笑んで散っていくのは、スピラの支えになっていた異界。
だけどそれは夢だった。わたしたちがそうあってほしいと願っただけの風景だった。淡い夢の向こうで、転げ落ちた現実がわたしを見据えていた。
ユカリさんは、夢のように笑ってはいなかった。
「これで終わりなの?」
彼女の絶望に満ちた声が胸を刺して、とてもつらい。わたしが舞うごとに天へ昇っていく幻光虫は、道連れを求めるようにユカリさんの体にまとわりついた。
「私は生まれた世界で幸せになりたかったよ」
それがいけないこと? そう尋ねた彼女にはもう怒りさえもなく、ただただ悲しみに暮れていて、わたしの足を重くした。
ザナルカンドは夢幻の楽園じゃない。あっちにだってつらいことや苦しいことはたくさんあったんだと思う。だってわたしが出会ったひとはみんな、苦痛を胸に秘めていた。楽しいだけの夢じゃなかったんだって、わたしたちは知っている。
みんな普通に暮らしてただけだよね。わたしたちと同じように……なのにお前たちは夢だから、もう夢を見るのは疲れたからって、消えてくれだなんて。そんなの納得できなくて当たり前だよ。でも……。
「でも、わたしは後悔してません」
ユカリさんにどれほどの苦痛を与えたとしても。どんなにたくさんのものを失うはめになっても。彼女は彼女のザナルカンドを、わたしはわたしのスピラを守るために戦って、それを尽くしただけなんだ。
悲しいだけ。悔やみはしない。でなければわたしが送った人たちに申し訳が立たないから――。
「……ユウナが悪いんじゃない」
目を逸らして、伏せた睫毛が切なかった。ユカリさんだって分かってた。
「誰も悪くない、分かってる……だけど私は恨みながら消える!」
叫びとともに彼女の輪郭が揺らいだ。もう他の夢と一緒に消えてしまうんだろう。結局、ユカリさんの想いを昇華させてあげられなかった。スピラへの失望をそのままに、異界へ送ることになってしまった。
「私たちに逃げ場を求めておいて、自分のためだけに私たちを顧みることなく栄えようとするこの世界を憎みながら、私は消えるよ」
泣き出してしまいそうな瞳が揺らめいて、肉体は透き通り、宙に溶けてなくなった。最後まで憎悪を抱いて、懐かしい日々の笑顔を浮かべられないまま、もうわたしの手の届かないところへ。
『絶対に忘れさせないわ』
やっと手に入れたナギ節のかわりにとても重い枷を残して、彼女は死んだ。
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