彼女の扱い方


 まずはミシディアから。一度クリスタルの奪取に手をつけたら、もう立ち止まることも退くこともできなくなるだろう。バロン一国を使って世界中に戦を仕掛けるのだ、いくら四天王の一人といえども要地にいるのがカイナッツォだけでは心許ない。今こそゴルベーザ様の力がどうしても必要なのだ。
 そう、ゴルベーザ様の、力だ。決してマコトが必要なのではない。だが現実、ここにいるのはゴルベーザ様ではなくその体に入り込んだ力無き娘だった。
「どうしたものかな……」
 とうのマコトは意外に乗り気でバロンに入る支度をしているが、私は未だに何か他の方法はないものかと考え込んでいた。

 そもそも、なぜ皆あの娘を受け入れているのだろう。私達が仕えるべきはゴルベーザ様であって、得体の知れない異世界の人間ではないはずだ。
「人間を滅ぼすために動くものの頭が人間でどうする」
 元々まとまりに欠ける我々モンスター勢がさらに内から崩れていくような気がした。すでに私は、他の者達の心が分からない。
 スカルミリョーネは「何がそう不安なのか」と問いかけ笑った。そこには幾分か、私を哀れむ色が見えた。
「人間だと言うならゴルベーザ様も人間だろう」
「だがあの方は、私達と同じ目的を持っていた」
「マコトもそうではないか」
「……そうかな」
 彼女の目的は元いた世界に帰ることだ。その手段を得るためにゴルベーザ様の力を利用しているに過ぎない。私達の仲間ではない。もしものとき人間に同情し、裏切らないと言い切れるだろうか。

 結局のところ、単純に、信用できないのだ。だからバロンに送ることを納得できずにいる。
「人間か」
 ふと呟いたスカルミリョーネに何かと問うと、彼はややあって答えた。
「あいつの仲間は“元の世界の人間”だろう。……こちらの人間に対してならば、ゴルベーザ様よりも残虐だと思うぞ」
「とてもそうは思えんな」
 間髪入れずに否定した私に、なぜかスカルミリョーネは意外そうな顔をした。マコトが残虐? まさか、あり得ない。彼女は侵攻を渋っていたじゃないか。それに、殺さねばならない人間の数が少なく済むよう計らってもいる。殺戮をバロン王一人に留めたのがいい例だ。
 所詮は人間だ。同種のものに同情して、私達とはどこかで相容れない。ゴルベーザ様と、……同じだな。

「……意外だ、ルビカンテ」
「私はお前が彼女を残虐と見ていることのほうが意外だよ」
「マコトではなく、お前のことだ」
「……私の何が?」
 尋ねるべきではなかったかもしれない。スカルミリョーネは面白そうに私を見つめた。あまり感情を表に出すやつではないと思っていたのだが、ただこれまでは起伏に乏しかっただけなのだろうか。マコトが来てからスカルミリョーネはよく笑うようになった。
――主に私を面白がって、だが。

「相当マコトを気に入っているのだな」
「……は?」
 思いもよらぬ言葉に呆然としてしまった。いまの話の流れでなぜそうなるんだ。私は彼女に対する不満を並べ立てていたのに。
「お前は他人に興味などないと思っていた。ゴルベーザ様にでさえ、異を唱えることもなく従っていたのにな」
「それはあの方に忠誠を誓ったからだ」
 彼女にではない。だから、私の好意が彼女に向けられることはない。スカルミリョーネの言うことは全くの逆だ。
「……お前はゴルベーザ様と交わろうとはしなかった。だがマコトの一挙一動には戸惑い、思い通りに動かそうとする。見ていて面白い」
「私は面白くないのだが」
「だから面白いんだ」
「嫌なやつだな、スカルミリョーネ」
「前からだよ、ルビカンテ」
 確かにそうだな。前からだ。
 ……確かに、そうだ。ゴルベーザ様が世界への報復を口にしながらも動こうとしなかったとき、私は唯々諾々と従っていた。忠誠があったのは事実だ。しかしあの方の内面を知ろうとはしなかった。
 マコトは、その心情を知ろうとし、本当に信頼してよい者かと慎重に見極めようとしている。言い換えればそれは彼女を信じたいということにならないか。仲間であってほしいと。ともに行動したい、と。
「……ならば尚更、バロンにやるのは反対だな」
 見極めが済むまでは。

 ゴルベーザ様のお体に何かあっては困る。彼女の考えを知らなければならない。万が一にも裏切る可能性があるなら彼女に行動させてはならない。
 あまり危険な場所には行かせないようにしよう。バロンに入り浸るのも駄目だ。潜入後もここで過ごさせればいい。彼女をこちらの都合のいいように動かす術を、それのみを考えていたら、なぜかまたスカルミリョーネは愉快そうに笑う。
 もしや、単に彼女が心配なだけではないのか。不意に浮かんだその仮定は捨てておこう。私が求めるのは目的に必要な力だけなのだから。




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