ギルガメッシュチェンジ


 ちょっと前になんか視線を感じるなと思い振り返った瞬間、それは始まった。睨むがごとく俺を見ていた瞳にかちあい、そこから目を離せなくなった。というより離したら負けだと思った。
 喧嘩を売ってんのか、それとも愛の告白か、やけに熱の篭った視線が気になる。たぶん、ろくでもない用件があるんだろうな……。
 次元城の空に雲でも流れてれば、時間の経過を感じられただろうか。生憎と時の止まったこの世界で、どれほどの時間そうしていたのか分からない。そろそろ首が痛くなってきた頃にようやくユカリは決心がついたらしい。
「ギルガメッシュってさ」
「おう」
「魔物だっけ」
 なんだそりゃ、今更かよ! というか分かるだろ、普通。魔物に馴染みすぎて鈍感になってるんじゃないのか。
「魔物の親玉の親衛隊長なんかやってんのは魔物ぐらいだろうに」
「んー、でも人間くさいしよくわかんないもん。確か、腕がいっぱいあったよね?」
「ああ……」
 くだらなかろうとは思っていたが用件がそれなら本当にくだらなすぎてびっくりするぜ。それしきのことを言い出せずにじっと睨み合いを続けてたのか?
 俺が魔物としての本性を露にすると、ユカリは目を輝かせて腕に飛びついてきた。存在を確かめるようにぺとぺと触りまくる姿を見て、以前目撃した光景を思い出してしまった。
 ユカリの好奇心はかなり長持ちする。飽きてしまえばそれっきり放置だが、飽きるまでがしつこいのだ。
 ついこの間なんかは唐突にアトモスの中側が気になって居ても立ってもいられなくなったらしく、長時間ソワソワしては四天王に宥められていた。
 だが奴らの説得の甲斐もなく、エクスデス様が出ずっぱりでコスモスの奴らの相手をして300戦を越えた辺りで「いい加減にしろ」とブチ切れてフィールドごとアルマゲストで飲み込むまでずっと右往左往しても興味は他へ逸れず、結果やっぱり気になって耐えられなかったユカリは頭からアトモスの口に突っ込んで行方不明になった。
 その後しばらくユカリを見かけた者はなく、あるとき突然どこからか舞い戻ってきたヤツは至極冷静に「あれは誰でも泣く」と言って俺の肩を叩いたっけか。……次元の狭間にでも行ってきたのかね。
 まあとにかく、あいつにとっての“気になる”は“死ぬかもしれない”を上回るわけだ。ある意味、肝が据わってると言えなくも……ないか。で、その筋金入りに厄介な好奇心が、どうやら今は俺に向けられている。
「腕いっぱいあるって便利そうだよね! でも頭こんがらがったりしないのかな? 全部バラバラに動かせるの? っていうかじゃんけん最強だよねギルガメッシュ!」
「とりあえず落ち着け、な」
 何が嬉しいんだかキャイキャイ騒ぎ立てながら俺の周りをぐるぐる周り、いろんな角度から眺めて楽しんでいる。なんつうか、アトモスの口から異界に抜けた時も、たぶんこんな風だったんだろうな。
 ややあって少し落ち着いたらしいユカリがコホンと咳ばらいをし、怖ず怖ずと上目使いで「あのね」と呟いた。
「わたし、ずっと気になってたことがあるの」
「へえ、何だよ」
「気になって眠れなくて夢に見るほど気になって」
「そりゃヤバイな」
 眠れないのに夢を見るとは。って、だから一体どういうことなんだよ。
「つまり、何だ」
「うん。……あのね」
 ユカリはもじもじと照れ臭そうに身じろぎして、無駄に色気づいた仕種で俺の二本目の腕を撫でるとそのまま付け根に辿り着いて水平にチョップをかましてきた。地味に痛いなこれ。
「ここって肩なの? それとも腋なの?」
「……え」
 どっち……だろう。一本目の腕を基準にすれば腋だが二本目から見れば肩だな。考えたこともなかった。
 ……だああっ、そんなにシンプルで奥深いことサラっと聞くなよな! 俺まで気になって眠れねえだろ!?
「ここにパッドをあてた場合それは腋パッドなのか肩パッドなのかって」
「心配しなくてもそんな装備は身につけないからくだらないこと気にするな!」




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