発見


 塔内を散策中、前方に現れた人影を何気なしに見遣りルビカンテの足が止まった。何故か不服そうなスカルミリョーネの姿は、何をしようと思い歩いていたのかを忘れさせる程度には衝撃的なものだった。
 そこかしこが裂けて薄汚れたローブ、腐った肉体に羽織るのがそれでは、見目がよいとは言い難い。それはいつも通りだとして異様なのはその頭部だ。目深にかぶったフード部分だけ新調したように真っ白で、さらに頭頂部左右に三角の突起が二つある。猫の耳を模した飾りのようだ。
「なぜだ?」
「知るか」
 思わず尋ねた言葉に、返したスカルミリョーネの声が刺々しい。だがその心情を理解できなくはないだけに、ルビカンテもやる瀬ない溜め息をつくほかなかった。
 そもそもこういった飾りは年若い娘が身につけてこそ微笑ましくかわいらしいのであって、男で大人で魔物でさらに死んで腐ったスカルミリョーネが猫耳など生やしていたところで。
「気持ち悪さを通り越して居た堪れなくなってくるな……」
「やかましい」
 似合うと思っているのだろうか? まさかそんなはずはない。であれば彼は一体なんのためにこんな格好をしているのだろうか。
 もとより自分の外見を厭うているスカルミリョーネのこと、他人に己の肉体が見えなければ着る物などどうでもいいという了見なのかもしれないが、それにしても不気味だった。ローブを着なければいいのに。その方がまだマシだ。
「もしかすると、そういう趣味が」
「あってたまるか!」
「それは良かった」
 憮然とした視線を避けて、存在感のありすぎる猫耳に触れてみる。当たり前だが中身は無かった。ただ他よりも厚い生地で作られたそれは、しっかりと弾力があり触っていて妙に楽しい。
「まあ外見は悪いが、害はなさそうだな」
「外見が悪いだけでも害だろう」
「……で、誰が原因なんだ?」
 尤も、聞くまでもなく見当はついていた。こんな無意味でくだらない遊びに講じて喜ぶのはユカリかカイナッツォぐらいのものだ。ルビカンテとしてはその二人を同列に並べたくないのだが、他人を弄って楽しみたがるという点で、掛け離れているべき二つの存在は確かに似ている。
 そしてまた仕掛けた悪戯の罪の無さから、犯人がカイナッツォでないことは確かだった。
「……ユカリ以外に居るまい」
「どうしてお前なのだろうな」
「それは私が聞きたい」
「一番似合わないからかな?」
「……」
 例えばバルバリシアなどであれば、まだ見られたものだったのに。年はともかく。
 ユカリは、とかく他人の欠点を暴きたがる。厄介な趣味だ。とくにコンプレックスの塊のようなスカルミリョーネにとっては頭痛の種だろう。それでも、からかわれつつ軽蔑はされないところが救いだろうか。
「……それも、ユカリが被っていれば可愛かっただろうにな」
「そう、……そういう問題ではない」
「納得しかけたのか」
「誰が!」
 そこにある好意を知ってしまえば、もう迷惑だと断じきれない。
 他者との関わりを徹底的に避けていたはずのスカルミリョーネが憤りつつも彼女を拒絶せずにいる。緩やかに変化してゆく周囲に気付いた時、ふと温かなものが込み上げた。




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