食事


 己の属する組織には、普通以上に金がないらしいことはカインにも分かっていた。しかしそれとこれとは別である。
 食い物すら買えないほどの貧乏ではないのに、何故ゴルベーザの出す食事は……なのだろうか。まずいわけではないのだが、それが逃げ道を塞いで尚更つらいのだ。いっそ自分を料理人として扱ってくれとさえ思っていた。
 たまにならいい。だが現状、ほぼ毎日だ。時には巧妙に外見をごまかしつつ何食わぬ顔で紛れ込んでいることもある。カインには一見しただけで分かってしまう。見たくないものほど目敏く見つけてしまう己が恨めしかった。嫌がらせなのかと疑い始めたのは最近だ。
 ある日のことだった。食事を終えた少女に、さりげなく話を持ち掛けるのを見た。
「ユカリ、今日の献立はどうだった」
「あ、うん。おいしかったよ〜」
 のんびりと答えるユカリに心なしか思案げな仕種でゴルベーザが返す。ああまただ、とカインはげんなりする。
「美味しかった、か……あれはいいのだな」
「……え。あれって何!?」
 黙っていれば分からないのに。彼女は普通の料理だと思って食べているのに。どうしてわざわざ感づかれるようなことを言うのか。
 あのやり取りを見て以降、カインの疑念は深まった。ついに耐え切れなくなり主の部屋を訪ねる。威圧的に応じたゴルベーザは、事もなげに言ってのけた。
「反応が面白くて、ついな」
──やっぱりわざとなのか!
 怒りとも悲しみとも言えない失望感が膨れ上がり、それが急速に萎んで脱力した。いわゆる諦観というやつである。どうせ主に逆らえない己が、何を物申しても無意味なことだ。
 作り手の心を気遣い、ゴルベーザを傷つけぬようにと、嫌がりながらも無理して下手物を食しているユカリの姿が浮かぶ。哀れだった。全くもって報われていない。
「ゴルベーザ様は……」
 何だと問い返す視線に何も言えなかった。口に出してしまえばあまりに不敬だ。
──ゴルベーザ様はいじめっ子ですか。好きな子の泣き顔にちょっと喜ぶタイプですか。
 抑圧され消えかけたカインの真なる心に、ほんのりとゴルベーザへの共感が芽生えたようだ。
 とはいえ……人並みの良心も持ち合わせているが、やはり他人よりは自分が大事だ。あの少女をからかうのは勝手だが、ともかく俺の分ぐらいは普通の食事にしてほしいとカインは思う。
 ゴルベーザの言う「反応が面白い」人間の枠に、実はひそかに自分も入っていることには気づいていなかった。




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