魔法


 あまり他者には漏らさないが、スカルミリョーネは魔法が苦手だった。
 じわじわと相手の体を蝕み、内から腐らせてゆく毒の魔法。あるいは対象を凍りづけにし、体温を奪いながら死に至らしめる魔法。落雷を招き痺れさせて動きを止める魔法などならばよく使う。
 しかしそれらもただ使うことができるというだけ、戦いの手段として好んでいるだけだった。好むと好まざるに関わらず、不得手なものはある。
 魔法とはつまり自己の発現だ。内に秘めたる力を示し、魔力を形にして打ち出す。内面を出したがらない者がそれを得意とするはずがない。
 彼の内心の苦悩を知りつつ蔑む者もいた。卑屈なわりに自尊心も溢れるスカルミリョーネにはそれが耐えられず、折を見て特訓をしていたりするのだが。ルビカンテ辺りにばれては喜んで鍛え込まれてしまうので、あくまでも人目の無い場所でひっそりと、ではある。
「ねぇ何してんの?」
 しかし、隙間を見れば手を突っ込み、厄介事が起きれば首を突っ込み、面白そうなことがあれば口を突っ込むユカリである。暇潰しに毎日そこら中を歩き回っている彼女には、どれほど巧妙に隠れていてもいずれ見つかるのは当たり前と言えよう。
「ねー、何してんのー?」
「……うるさい。私のことは放っておけ」
 彼女は突き放すほどにムキになる性質なのだが、嫌な場面を見られた憂鬱で頭がいっぱいのスカルミリョーネにはそこまで思考が回らない。
「さっき魔法使ってたでしょ? 見せてほしいなー」
 無駄に煌めく瞳であった。スカルミリョーネの憂鬱は深くなる。彼女は他の四天王との関わりもあり、竜巻だの津波だの炎の渦だの、派手な魔法を見慣れているだろう。また己の最も得意な土の魔法も、地面から遠く離れた機械の塔では使うことができない。
 はなから期待に応える気もなく、どうやって追い払おうかと考えていたら、ユカリがじれったそうにその手を引いた。
「お土産に鉢植えもらったんだよ! 土だからなんかできないかな?」
 引かれるままに連れて来られた部屋は殺風景で、ぽつんと置かれた鉢が異様に浮いている。咲く花の名は分からないが、白く小さな蕾がついていた。
 何かできないか? できることはある。馬鹿げるほどの微弱な魔力をこめて、その花が根を張る土に軽く触れた。ふわりと、花びらが開くと同時にユカリが目を見開いた。
「……えっ、すごい魔法みたい! って魔法か!」
 魔法と呼ぶのも図々しいちっぽけな力だ。
「いいなあ、これだよこういう魔法がいいんだよ。ね!」
「……そうなのか」
 それでも、相手を選べば相応の威力を発揮するらしい。未だ全てを知るわけではないのだな。魔法とは奥深いものだと、スカルミリョーネは苦手意識を新たにした。




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