異質


「お腹空いたーって思うことないの?」
 元々は人間だったんでしょう、気持ちが残ってたりしないの? とユカリが尋ねる。ブラックナイトは困惑した。空腹を感じないか、などと主にさえ聞かれたことがない。何しろ主であるスカルミリョーネも魔物だから、腹など減らないのだ。
 もっとも、生れついての魔物であるスカルミリョーネと死してリビングメイルとして甦った己とでは、違うかもしれないと思う。どちらにせよ空腹というものの存在は忘れて久しいが。
「……腹ハ、減ラナイ」
 たどたどしく発せられた返事を聞いて、ユカリが羨ましげに溜め息をつく。そしてブラックナイトの鎧に触れると「いいなぁ」と呟いた。
「何も食べなくて済むなら、いろんな問題が解決するよねぇ」
 食料を仕入れるための金、それを調理するための施設、そしてまた金、自らの手間も随分減るだろう。料理の手間に食事の手間、排泄も無用になる。彼女が羨むのは他の理由なのだろうが。
 死んでいるというのは、生きるものから見れば便利なのか。自分が生きていたときにそんなことを考えただろうかとブラックナイトは悩む。記憶を蓄積するはずの脳はすでになく、生前の価値観も分からなかった。
「……オカシナ奴ダ」
 食い物で魔物を計るものなどいない。人間を前に感じる劣等も憧憬も、ユカリには無意味だった。この異質な少女はもっと些細な物事ばかりを見て、重大なことなど気にも留めない。話す相手が死人であっても、どうでもいいらしい。




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