みかん


「冬至だそうです」
「ああ〜、寒いのは嫌だ〜」
「冬のウイナッツォを名乗ってるくせに……。冬至の日には“ん”のつくものを食べるといいそうですよ」
「ほ〜、じゃあ今日はうどんだな」
「とぼけないでください」
「何のことだ?」
「私のみかん食べましたねウイナッツォ様」
「そういうお前はオレの餅を食っただろう」
「筋を取ってからお茶をいれに行った隙に」
「お前なんか堂々と目の前から奪っただろ」
「犬のくせにコタツでみかん食べるなんて贅沢な」
「犬じゃないしオレのコタツなんだから文句言われる筋合いはないしそもそも贅沢じゃないだろ、みかんは」
「贅沢ですよ! 足元はほかほかしながら皮を剥いて筋を取ってぷるぷるの実をひとつずつゆっくり口に運び、広がるあの甘さが」
「一粒ずつ食うのってまどろっこしくないか?」
「それです。それがまた腹立たしいです。私がチマチマきれいに剥いたのをその無駄に大きな口がガバッと蹂躙したのです」
「……みかんの筋取ったり一つずつじゃなきゃ食わなかったり、意外と可愛いよなァ、ユカリ」
「勝手にほのぼのしないでください私は怒ってるんですから」
「もちきんで手を打たんか」
「今はみかんの話をしてるんです! ごまかされません!」
「みかんじゃ温まらないだろう」
「心はぬくもります」
「食い物めぐっての争いは醜いよな〜」
「そう思うなら食べないでくださいよ。それとも1グラムもつまっていないウイナッツォ様のお脳はあれが私のみかんであるという猿でも理解できる情報を処理しきれませんでしたか?」
「いや〜、あまりにも楽しそうだったからついな」
「私が楽しみにしてたから盗ったなんてこの鬼畜! 駄犬! 変態! 粗チン! 致命的経験不足!!」
「関係ねェだろ!?」
「ううう〜、ウイナッツォ様の貧弱尻尾〜……みかん返してくださいよう、禿げろクソ犬」
「まあ確かに、ユカリがへこむところが可愛らしいので見たかったというのもあるが、オレも一応お前の上司として」
「自分で一応なんて言っていいんですか」
「……いいの。オレもお前の、ユカリ将軍の監督者として負わねばならん責任があるわけだ。分かってくれ」
「意味が分かりません」
「部下があんな半熟なみかんなんか食ってたらオレが大魔王様から怒られるの!」
「私はじゅくじゅくしたやつ嫌いなんです」
「お前ここがどこか分かってるよな!?」
「分かってないのはウイナッツォ様です。私が未熟なものを好いていなければとっくにここから去ってます」
「……それ喜ぶべきところか? いやともかく、昨日の夜に買った完熟みかんがそろそろ届くはずだから。それ食って機嫌なおせ」
「………………」
「ものすごく不満そうだな」
「どれほどのみかんを口にしても失ったあのみかんは二度と帰らない」
「いつも思うんだがその食い物への執着心の半分でもオレに向けられないか?」




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