にくにく


「おい、ユカリ!」
「はーい、カイナッツォ!」
「無駄にいい返事だな」
「えへー、ありがとう」
「誉めてねえよ……」
「どうしたの? 機嫌悪いね」
「どうもこうもあるかよ、お前あの魔道士どもに何を吹き込んだ」
「魔道士って……誰? パロム?」
「そこら辺りの全員だ! ユカリに何してんだって袋叩きにあったぞ、オレは」
「ええ、なんで?」
「オレが聞いてんだよ。なんか余計なこと言ったろ、あることないこと」
「あることは言ったけど、ないこととか余計なことは言ってないもん」
「ほぉ〜。じゃそのあることってのを言ってみろよ」
「べつに当たり前のことだよ。カイナッツォがどんなにかっこいいかとか、どんなに可愛いかとか、わたしがどれだけカイナッツォが好きかとか」
「……それを触れ回ってんのか……」
「どうして脱力するの?」
「……その件についてはとりあえず後回しだ。他に、最近なにか話したか?」
「うーん……?」
「オレに何かされたとかどうとかそういう話だ。思い出せ、そして二度とするな」
「そんな話したかなあ」
「おめーがしたからオレが殺されかけたんだっつうの!」
「またまた、殺しても死なないくせに……あっ、あれかな」
「何だァ?」
「でも言ったらカイナッツォ怒りそうだから言わない」
「もう怒ってるから安心して吐け」
「えー、でもー」
「よぉし、つなみかブリザガ選べ」
「わたしの体ってどの辺までなら食いちぎられてもすぐ再生させられるの? って白魔法使えるひと全員に聞いた」
「…………」
「魔法は基本的に傷を塞いだり治癒力を高めるものだから、完全に食いちぎられたりしたらケアルしても回復には時間がかかるんだって」
「…………」
「……ほらやっぱり怒っ、」
「アホかてめえはああああッ!! それじゃまるでオレが常日頃からお前の肉食ってるみたいだろうが!!」
「そうなった時のために聞いたんだけど」
「なるかよ! 言っとくが人間の肉なんぞわざわざ食うほど好きじゃねぇからな」
「そうだったの?」
「あー、いちいち回復してまでお前なんか食わねえよ、胸くそ悪い。あいつらにちゃんと説明しとけよな」
「でもさ、食べなくてもわたしのこと生きながら引き裂いてみたいとか痛がるとこ見たいとか思ってるでしょ?」
「……思ってねぇよ」
「はあ、嘘つきはカイナッツォの始まり」
「意味が分からん」
「わたしは、カイナッツォが好きで、わたしの思うように応えてほしいって思ってるよ」
「そうだろうな。だがオレは、」
「でもカイナッツォはモンスターだから、普通に好きだって言ったり抱きしめたり優しくしたり、そういうのじゃないだろうなって、納得してる」
「…………阿呆。んなこと納得してんじゃねーよ、やりたいと思うのと実際そうするのは別だ」
「そうだけど。カイナッツォがくれるものなら、わたしが“好きだから”って理由なら、苦痛でも喜んで受けとるよ」
「あのなあ。うっかり殺しちまうかもしれんと思いながらいたぶっても楽しかねえんだよ。そういう欲求はそこらの獣でも何でも使って晴らしゃいい」
「でもわたしが殺されないくらい丈夫になればもっと……」
「いらねえ、っての。お前がどうしようと、オレが本気で痛めつけたいと思えば勝手にする」
「むー。ホントかなあ。カイナッツォ、変なとこで優しいから」
「変は余計だ。お前、優しさで生かされてると思ってんのか」
「違うの?」
「ちが……ああ、いやまあ、ある意味そうだが。じゃあなんで優しいと思ってんだよ」
「……カイナッツォが、わたしのこと、好きだから?」
「そう思うんなら今のままでいいじゃねえか。満足だろ」
「うーん、もう一声」
「贅沢な野郎だな。……人間なんか、引き裂いちまったら終わりだろうが。まだ楽しめるものを一瞬の快楽のために捨てるのか? もったいねえな」
「……うん、分かった! カイナッツォは今のところSMプレイに興味ないって」
「おい、分かってねえぞ」
「分かったよ。でもわたし、カイナッツォにわたしのこと楽しみつくしてほしい。だから最後はきっと」
「あーはいはい、最後はな」
「うん。最後はね」

――最後はきっと、その欲のすべてで、味わってほしい。




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