クリスマス


 にやにやとだらしない笑みを浮かべてユカリがにじりよってきた。先日からルビカンテを連れて知人を訪ね、律儀に世界中まわって配り歩いていた例のあれだろう。
「はい、クリスマスプレゼント! スカルミリョーネが最後だよ」
 今朝ようやくゴルベーザ様に、そしてバルバリシア達にも同じく「クリスマスプレゼント」を渡していた。なぜ私が最後なのだろうかと思いつつ、緑と赤の派手な装飾を施された袋を眺める。

 他の者へは日持ちする菓子など安価なものを大量に作っていたように思う。祝い事にしてはみみっちいが、地に足がついた考え方だな。そして我々への贈り物は、魔力を増幅させる指輪や防御を司る魔法が込められた髪飾りといったアクセサリーだ。安物のうえ人間の手による物なら魔物への効果は薄いが、ユカリが小遣いを貯めて買ったものだからとバルバリシア達は喜んでいた。
 私が受け取るまで引き下がる気はないと無言で差し出され続ける手を見やる。大袈裟なほどに溜め息をついてそれをひったくった。剣の柄に取り付ける飾りのようだ。
「プレゼント買う余裕できてよかったよねー」
「……そんな物を買わなければもっと余裕ができるだろうにな」
 自分にとって必要なものを買うほうが、もっと、ずっといいだろうに。
「こういうのは気持ちのものだからいいの!」
 気持ちが、何になるというんだ。他者になにかを与えるならば見返りがあるべきだ。同じ価値のあるものが返されないと分かっているのに捧げるなど愚かしい。
 そんなに馬鹿だから、どうやって返せばいいのかと悩むものの気持ちが分からんのだ。

 クリスマスというのはユカリの世界のある聖人に関する祭らしい。人間の宗教に関わる祭なら異世界の、しかも魔物である私には全く関わりないものだが、すでに意味するところの変わったその日は単に身近にいる大切な存在に感謝を示す日、となっているそうだ。
 感謝ならゴルベーザ様にであればいくらでも示すがいい。しかしやはり私には無関係だ……という答えはユカリの気に入らなかった。
 私も他のやつらのように素直に喜びありがとうと言えたなら、彼女は嬉しそうに笑うのだろう。しかしできなかった。そうしようと思う心をより強い思いが掻き消した。生まれながら私についてまわる、そのくせ制御のきかない、自尊心というやつだ。
 さらけ出したくない。己の心中など知られたくはない。ユカリが相手ならなおのこと。
 そして口をつくのはやはり悪態だ。握りしめた「プレゼント」が手の中で軋む。性格はそう簡単に変えられはしない。

「人間に贈り物をもらって私が嬉しいと思うのか」
 誰かを喜ばせるための行動というものに生まれてこのかた縁がなかった。どうすればいいのか理解しているのに、うまく折り合いをつけられなかった。どうしても悔しく思えて抗ってしまう。
 私の返答にユカリの顔が歪んだ。怒りはしない、いまさら泣きもしない。奴とて私の性格くらいは理解しているだろう。だが、理解していても傷つかないわけではない。
 ありがとう、嬉しいと、私が答えるだけで気が済むのだろうに。

「もー、頑固だなあスカルミリョーネは」
「それが嫌なら……」
 関わらなければいいだろうと、以前はもう少し簡単に言えたはずだが。
「……くだらん人間から渡されたものなど、手元に置きたくもない」
 分かるだろうか。そこまで馬鹿ではないと思いたいがあまり信用もできん娘だ。しかしユカリは理解したようだった。受け入れたくもない人間からのプレゼントを、私が懐にしまいこんだ、その意味を。
「メリークリスマス、スカルミリョーネ!」
 抱きついてきた体を、引き剥がさないのが精一杯だった。ましてその小さな背中を撫でてやれるのはまだ遠い未来の話になるだろう。それでも彼女は私の胸にすがりつき、至福の表情を浮かべた。




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