手を繋ぐ


 指先から相手の体温を感じる。その違和感でようやく、自分達が一つではなかったことを思い出した。
「変だね」
「ああ?」
「手、繋ぐのって、変」
「…………」
 なんだか静かだ。以前はいつも、頭の中で声がしていた。言葉にせずとも互いの考えてることが分かったのに。それが今ではどうだろう。口をつぐむだけでもう何も分からない。
 不思議で、面白くて、少し不安。

「……おい、相棒」
「なに?」
「なんで黙ってんだよ」
「え?」
「……お前、なんか無口になってねぇ?」
 どうやら同じことを考えていたらしい。思わずふきだしたら、不機嫌そうにこちらを睨む。
「なに笑ってんだよ」
「同じこと考えてたから」
 こうして口に出さなければ伝えることができない。当たり前のことなのに、ずいぶん前に忘れていた。それだけ近かったのだ。私はほとんどギグで、ギグはほとんど私だった。
 思うだけで全てが伝わることに慣れきってしまっていた。
「不便だね」
「面倒くせぇな」
 重なった言葉に、今度は二人で笑った。
 口に出さなければ伝わらないことがある。口に出さなくても伝わることがある。本当は何も変わってなんかいない。ただ少し戸惑っているだけ。

 指先から体温が伝わる、違和感。
「これからホタポタが二人分いるね」
「なに言ってやがる。オレは百人前ぐらい軽いぜ」
「また世界からホタポタが消えちゃうよ」

 もう溶け合うことは叶わないけど、こうして手を繋いでいるのも暖かい。想いを言葉にする。言葉を伝える。わかりあえたり、わからなかったり、わかちあったりする。
 一つだった時にはできなかったこと。これもきっと、幸せというのだろう。
「……私、ギグでなくてよかった」
「どういう意味だよそりゃ」
 私がギグになってしまわなくてよかった。ギグが私になってしまわなくてよかった。二人でよかった。同じでなくてよかった。
 きっとそのうち、手を繋ぐことも当たり前になるだろう。いつか消えてしまうものだとしても、今はこの違和感さえも愛おしい。




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