どうしよう


 目下で揺れる青い髪を見つめた。どうしよう。困る。本当に困るわ。
 ついて行くつもりなんてなかったのに。彼を探すつもりなんてなかったのに。全然、思いもしなかったのに。

 もくもくと遅い昼食を頬張っていたギャントが、遠くを走って行った何かの動物に気を取られて手の中の握り飯を落とした。そっと落下の軌道に触れて、ギャントの膝の上に着地させる。土の侵食を免れた貴重な食料を、彼は不思議そうに見つめた。
 干してもなく腐りかけてもいない、せっかくのまともなご飯を、この人は一体なにやってるんだろう。ため息をつきかけて慌てて押し込める。でもその必要はなかった。どうせ彼には聞こえないんだから。
 ……一緒にいたい、なんて、思ってなかったのに、今ではそれが変わりつつある。そんなに無防備にされたら、放っておけなくなるもの。
 わたしが見ていなかったらギャントはどうなってしまうんだろう。……なんて、どうもなりはしないに決まっているのに。

 いつまでも待ってるとギャントは言った。わたしが許されるのを待っていると。
 それは恐怖でしかなかった。もう二度と孤独な贖罪の日々は訪れないんだと思い知らされた。わたしが苦しみ続ける限り、どこか遠くで、それを知って泣いている人がいる。
 許しの日なんか来ないわ。わたしはそれを望んでいなかったんだもの。それでもギャントは待っているという。
 呪いにも似た言葉に、気づけばわたしの体は浮き上がっていた。あの屋敷を離れて、惨劇の残滓に汚れたまま、今はなぜかギャントの傍に。
 せめて声をかけず、姿を現さずにいよう。今だけはいないものとして振舞おう。
 だって、怖いの。初めて会ったときよりも背が伸びて、精悍な顔立ちになり、……生きているギャントを見ていると……引きずり込んでしまいそうだから。そうして二人、永遠に許されることなくさまよい続けるのかと思うととても怖い。
 そして何よりも、きっとギャントはそれさえも受け入れるだろうから。
 怖くてたまらない。だから今は、ただ見つめるだけでいい……。

 今度は我慢できずにこぼれた溜息は、青い髪を一房揺らした。ギャントが振り返り、強い視線がわたしの瞳を射抜いた。
 見えているはずがないのに……あまりにも真っ直ぐに貫いて、熱い塊がわたしの存在を揺るがした。
 意味がないと知りながらギャントの視線から逃れるように体をずらす。その途端、ギャントの視線は強さを失い、頼りなく宙をさまよったあとは、また目の前の握り飯に集中した。
 ……じきに、ばれてしまうのかもしれない。わたしはどうするんだろう。
 怖くてたまらない。だけど……もしかしたら、ギャントが引きずり込んでくれないだろうか。
 その生の一瞬に、わたしの存在を、彼が許してくれるなら。わたしは……どうしよう?




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